相続放棄をする際守るべきルールや必要な手続を紹介

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非常に大きな借金を背負っていた場合やその他様々な事情により、相続の放棄をすることもあるでしょう。しかし放棄も最低限法律で定められたルールを守って行わなければならず、これを守らなければ想定外の事態に陥ることもあります。

ここでは放棄についてのルールや、必要な手続について解説しますので、ぜひ参考にしてください。

相続放棄の基本的なルール

放棄に関しては民法第915条で定められています。

第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

同条によれば、相続が始まったことを「知ってから」3ヶ月と、期間に制限が設けられていることが分かります。

いつまでも放置をすることは許されません。

ただ、一応当人が認識してからという主観的な要素が組み込まれているため、知らない間にその権利を失っていたということは起こりません。

 

問題は判断をするのに必要な情報がなかなか集まらない場合でしょう。

同条2項にあるように、事前に財産の調査ができるとあります。放棄をわざわざするのは、遺産を引き継ぐことにデメリットがあるからであり、その判断は財産状況が把握できていなければすることができません。

しかし簡単に調べることができず、しばらく時間を要することもありますので、そうすると3ヶ月では足りないことも珍しくありません。

放棄のために必要な手続き

相続開始後、何らアクションを起こさなければ「承認」をした扱いを受けます。しかし、放棄をするには、別途手続きを要します。

家庭裁判所へその旨申述しなければならないのです。

全国各地に家裁はありますが、申述先として認められるのは、亡くなった方が最後に住んでいた住所を管轄する家裁です。

 

費用もかかりますが、1人あたり800円の収入印紙および連絡用切手分だけですので、費用がネックになることはないでしょう。

 

申述書と亡くなった方の戸籍附票(もしくは住民票除票)と、申述人の戸籍謄本は共通する必要書類ですが、亡くなった方との関係性によって変わってくる準備物もあるため注意しましょう。

例えば亡くなった方から見て、
「配偶者であるケース」や
「子または代襲相続する孫やひ孫等であるケース」、
「親や祖父母であるケース」、
「兄弟や甥・姪といった代襲者であるケース」
などのパターンで分かれています。

 

申述書はフォーマットが家裁のWebサイトで確認できますので、一度チェックしておくと良いでしょう。

20歳以上か未満かによっても記載の仕方が変わりますので注意が必要です。

 

なお、念のため実際放棄をするときには専門家への相談をおすすめします。一度手続を済ませてしまうと通常はやり直すことはできませんし、トラブルのないようにしなければなりません。

相続の廃除をしたが取り消したい!どのような手続をすればいい?

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配偶者または子などとの関係性が非常に悪く、財産の承継を否定する客観的な事情も持つ場合には「廃除」をすることができます。

しかしその後、実際に相続が始まるまでの間に関係性が回復することもあるでしょう。このようなケースで廃除を取り消すにはどうすれば良いのかご存知でしょうか。

廃除の取消しとは

配偶者や子は、通常、相続人となることができます。そのため被相続人との関係性がどうであれ原則は財産を引き継ぐことが可能です。

しかし、生前に暴力をふるっていたり侮辱的な行為をしていたりなど、著しい非行がある場合にまで相続人としての立場を守る必要はありません。

 

そこで「廃除」の制度が設けられています。

被相続人となる者は、家庭裁判所に請求をして、その者から相続の権利を剥奪できるのです。遺言によってその意思表示を行うことも可能で、その場合には遺言の執行者が家裁に請求を行うことになります。

 

ただ、この廃除は、一度手続を終えればいっさい取り消すことができないものではありません。廃除を取り消して、配偶者や子などの相続権を復活させることは可能です。

 

例えば、関係性が良好になることもあるでしょう。過去に酷い扱いをされていたとしても、数年、数十年経過すれば関係性が変わることもあります。

そもそも廃除の制度自体、被相続人の持つ財産の処理について、本人の意思を尊重すべきということで設けられているものです。

そのため実際には関係性が回復をしていなかったとしても、本人が、自らの意思で廃除をなかったことにしたいというのなら、その意思も尊重すべきなのです。

 

その結果、取り消しをすることは認められていますし、民法でもその旨規定が置かれています。

第894条第1項 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

なお、廃除が遺言でも可能なのと同様、取り消し請求も遺言によって行うことが可能です。そしてこちらもやはり遺言の執行者が代わりに家裁へ請求をします。

廃除を取り消す際の注意点

取り消しを請求しても必ずその通りになるとは限りません

もともと廃除自体が厳格な審査を要する手続であるため、その取り消しにも家裁が介入します。

 

そこで、遺言での取り消しは避けるべきでしょう。この場合、事後的な対応となり、上手くいかなかった場合に対処のしようがなくなります。

理由を書き残したり、証拠を残したりなど、工夫して遺言を作成しなければなりません。

 

そこで事前に専門家のアドバイスを受け、家裁に請求をしておきましょう。自ら証言することも可能になりますし、結果として請求を認めてもらいやすくなります。

相続人がいないとき債権者はどうする?財産管理人の選任について紹介

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被相続人の債権者は、相続財産から救済を受けることが可能です。しかしその遺産を管理してくれる者がいなければ財産が散逸してしまうおそれもあります。そこでこのような事態に備えて管理者を定める手続が設けられています。

管理人選任の申し立て

遺産は、相続人が管理するものとして法律で定められています。そのため通常は特段の手続を要することなく財産が保存・保管されます。

しかし常に相続人が存在しているとは限りませんし、存在が明らかでないケースもあります。

債権者は、弁済を受ける前に債務者が亡くなってしまった場合、残っている財産から救済を受けることになりますが、適切な管理をされていなければ十分な弁済が受けられない可能性も出てきます。

 

そこで役に立つのが「管理人選任の申立」制度です。家庭裁判所に申立を行い、管理者を選任してもらうのです。選任後はその者が債務の支払いなどを代わりに行うことになります。

 

申し立てることができるのは「利害関係人」と「検察官」とされており、この利害関係人とは例えば債権者や特定遺贈を受けた者、そして特別縁故者なども含まれます。

 

必要な費用を準備して、被相続人が最後に住んでいたエリアを管轄する家庭裁判所へ申立てを行いましょう。

なお費用と言っても800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手、公告料4,320円だけです。

 

管理の仕事に対する報酬は相続財産の中から支払うことになるため、申し立てをした者が直接費用を負担する必要はありません。

ただ、遺産価額が少額であった場合、管理者への報酬分が満足に捻出できない可能性があります。

そうすると申立人が予納金として納めないといけないケースもありますので、注意が必要です。

選任申し立てに必要な書類

当該申し立てに必要な書類は「申立書」と、戸籍謄本等の添付書類です。

申立書は裁判所のWebサイトから書式や記載例が確認できます。添付書類の種類に関しても以下のサイトで掲載されていますので、一度確認しておくと良いでしょう。

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html

選任後の流れ

  1. 家裁が選任をした後、まず、その旨の公告がなされます。
  2. そして公告から2ヶ月経過後、債権者や受遺者を確認するためにまた公告を行います。
  3. その公告からさらに2ヶ月経過後、家裁は相続人を捜すために6ヶ月以上の期間を設けて公告を行い、期間満了までに現れなければ不存在が確定します。
  4. その後管理者は必要に応じて、財産を換価し、債権者等への支払いをしていきます。

この流れを見て分かるように、実際に債権者が支払いを受けられるまでには長い期間を要します。この点理解しておきましょう。

なお残った財産は国庫として収められます。

相続開始後、財産の管理は誰がどのように行う?相続放棄した場合も紹介

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相続は財産をもらうことにばかり注目がいきがちですが、特定の財産を引き継ぐまでには時間を要します。そこで、遺産分割が確定するまでの財産管理が問題となります。

 相続人が管理するのが基本

最も基礎的なルールが民法第918条第1項に規定されています。

第918条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。

この規定によれば「相続人」が管理をしなければいけません。基本的にその財産は相続人らで分けることになるため、その者達で大切に保管し、管理するのが当然と言えるでしょう。

そしてそのときの注意義務は「固有財産におけるのと同一の注意をもって」とあり、これはつまり自分の財産と同じ程度の注意義務で足りると解釈されます。

そのため、将来的に自分は承継しないだろうと思われる財産であっても、きちんと保管をしていなければなりません。単に手元に置いてさえすれば良いのではありません。

ただし、「善管注意義務」と呼ばれる、高度な注意義務までは課されていません。

 

なお、相続人がいないケースもあり、そういった場合に備えて同条第2項では、利害関係人や検察官からの請求によって財産の保存に必要な処分を命じることができるとも規定されています。

相続人ではない者が贈与の契約をしているケースもありますので、その場合に保管者がいないのでは困ります。利害関係を持つでも勝手に財産に手を出すことはできないため、家庭裁判所に請求をして財産を保護してもらうことになるでしょう。

相続放棄をしても管理の義務はある

続いて相続を放棄した者の対応に関しても見ていきましょう。

上で紹介した条文には、ただし書きで「放棄をしたときはこの限りでない」とあり、放棄をしたならこのルールが適用されない旨定められています。

 

しかしながら民法第940条には、放棄をした者による管理に関する規定が置かれており、放棄をしたとしても相続人となった者が管理を始められるまでは管理を継続しなければならないとされています。

第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

放棄をした場合、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も一切引き継がなくなり、初めから相続人でなかったものとして扱われます。

相続分の計算をする場合にも完全に無視されることとなり、相続に関して関係性を断つことができます。

 

しかしながら管理に関してもこの流れを貫徹してしまうと、財産が散逸してしまうなど、多大な影響が及ぶおそれがあります。そのため、このように次の管理者が出てくるまでの間に限定して管理の義務を課しているのです。

なおここでも注意義務は自己の財産と同一で足りるとされています。

相続財産の調査が長引きそう!相続の承認や放棄ができる期間を伸長する方法とは

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相続が開始されると、相続財産を引き継ぐかどうか、これを放棄するかどうかといったアクションを一定期間内に起こさなければなりません。しかしながら手続きが間に合わないこともあります。そこでここではこの所定期間を伸長するための方法について紹介します。

通常は3ヶ月以内の手続が必要

限定承認あるいは相続放棄をする場合、原則として、「相続が始まったことを知ってから3ヶ月以内」に手続をしなければなりません。そうしないと単純承認をしたものとして、マイナスの財産も含んだすべてを引き継ぐことになり、場合によっては多額の借金を負うことも起こりかねません。

ただ問題なのは、その判断がすぐにできないケースもあるということです。判断材料を集めるためにも調査を要しますし、多様な財産を抱えている場合にはその調査に相当の期間がかかってしまいます。

そうするとこの3ヶ月という期間内に間に合わない可能性がでてきます。

家庭裁判所に申立て期間を伸長できる

上の内容は基本的なルールです。そのため何が何でも3ヶ月ルールが適用されるわけではありません。

同ルールを定めた民法第915条第1項でも、ただし書きにて「この期間は伸長ができる」と定められています。

民法第915条第1項
「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。」

ただし容易に伸長ができると考えないように注意しましょう。単なる懈怠により遅れた場合などには認められない可能性があります。

伸長の手続き

この伸長を申立てることができるのは、検察官のほか、「利害関係人」と規定されており、相続人であれば申立てることができます。

 

申立て先は家庭裁判所です。亡くなった方の住所地を管轄する家裁に申立を行いましょう。

 

費用は収入印紙800円分と連絡用に必要な郵便切手のみで、あまり気にする必要はありません。必要書類には申立書のほか、被相続人および相続人の戸籍謄本が必要です。詳しくは状況によって異なりますので、家裁のホームページで確認すると良いでしょう。

申立書の書式・フォーマットに関しても記載例が提示されていますのでそちらを参考に記入していくと良いです。

 

なお、この申立ては相続が始まったことを知ってから3ヶ月以内にする必要があります。遅れてから事後的に対応することのないよう、十分注意しましょう。

相続開始はいつから?失踪者・行方不明者に関する相続開始の時期を解説

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相続が始まってからは遺産分割をしたり、権利を守るため対抗要件を備えたりなど、しなければならないことがたくさんあります。そのため「いつ」相続が始まったのか、が重要になってきます。ここでは特に被相続人となる立場の人が失踪・行方不明になった場合における相続開始時期を説明します。

相続開始時期の基本

まずは基本的な開始時期に関してですが、ご存知の通り、本人(被相続人)の死亡によって相続は開始されます。このことは民法第882条にも規定されています。

民法第882条「相続は、死亡によって開始する。」

 

そのため通常だと、相続の開始時期がわからず困ることはそうありません。ただ問題なのは本人が失踪しており、死亡したかどうかがわからない場面です。

失踪者の扱いについて

本人の行方がわからなくなっているときに関しても、民法でその扱い方が規定されています。第30条第1項によれば、行方不明になって生死が「7年」わからない場合、家裁は失踪宣告ができるとあります。

行方不明になった者については生きている可能性があるものの、亡くなっている可能性があるにもかかわらずこの状態をいつまでも放置していると関係者に不利益が生じる恐れがあることなどから、7年間行方が不明であれば亡くなったものとして扱うことができるのです。

 

また、なかなか起こり得るシチュエーションではありませんが、船舶上にいた者に関する規定も同条第2項に規定されています。例えば船舶上にいる場合に嵐がやってきたとき、それにより死亡するおそれがあります。

そこで船が沈没してから「1年」、またはその他の危難が去ってから「1年」、生死が不明なときも失踪者と同じ扱いをする旨が規定されています。

失踪者に関する相続開始の時期

前項で説明したように、行方がわからない者については失踪宣告をしてもらうことができますが、同法第31条では、その「7年を経過した時に亡くなった」としてみなすと定められています。

ここで重要なのは、失踪した日に亡くなったと考えるのではなく、失踪してから「7年を経過した日」に亡くなったものと扱っている点です。つまり相続が開始されるのもこの日となります。

なお、船舶上にいた者に関してはより早期に死亡したものと考えられるため、「危難が去ってから1年経過後」ではなく、「危難が去ったとき」に死亡したものとし、相続が始まります。

 

亡くなったとみなす日がいつなのかによって様々な権利関係に影響してきますので、専門家に相談するなどして具体的な対応を検討するようにしましょう。

【遺産相続手続きの費用(3)】費用は誰が払う?手続きを進めるときの注意点

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遺産相続手続きにかかる費用を誰が払わなければならないかについては、特に決まりはありません。

 

遺産相続手続きにかかる費用は誰が払うか

一般的に不動産の相続登記については、不動産を取得する相続人がその費用を負担します。
その他の相続に関しても、それぞれの相続人が手数料などを負担することになります。


しかし介護費用や医療費の支払いなどは、被相続人の看護をしていた相続人が一時的に負担することが多いのではないでしょうか。

 

そこで民法では遺産分割前でも、被相続人の預貯金の一部を払い戻せるようにルールをもうけています。

 

遺産分割前に被相続人の預貯金の一部を払い戻す方法

 

家庭裁判所の判断を経ずに金融機関の窓口における支払い 預貯金債権の一定割合(金額による上限あり)については、金融機関の窓口における支払を受けられる
家庭裁判所による判断 ・遺産の分割の審判または調停の申立があった場合
・相続人の生活費の支弁その他の事情により、遺産に属する預貯金債権を申立人が行使する必要があると認めるときは、その申立により、遺産に属する特定の預貯金債権の全部または一部をその者に仮に取得させることができる
・他の共同相続人の利益を害するときを除く




なお、相続税についても誰が払うか法律の規定はないため、相続人同士でよく話し合わなければなりません
遺産相続手続きにかかる費用の支払いでもめそうなときは、弁護士など専門家に相談するとよいでしょう。


遺産相続手続きを進めるときの注意点

遺産相続手続きを進める上で、相続税がかかります。
また、相続財産を売却すると譲渡所得税なども課税されるので注意が必要です。

相続税と譲渡所得税などについて確認しておきましょう。

 

相続税と税理士報酬

遺産を相続すると、相続財産が課税されない金額の場合を除き、相続税を支払う必要があります。
相続税の税率は以下の通りです。

 

相続税の税率
法定相続分に応ずる取得金額 税率 税額控除
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円
引用「相続税の税率」(国税庁)

 また、相続税申告を税理士に依頼すると税理士報酬がかかります。

税理士報酬は税理士事務所が独自に設定しているので、依頼する税理士に確認しましょう。

 

相続財産を譲渡したときの税金や費用

相続財産を譲渡したときの税金と、その他の費用について見ていきます。

 

譲渡所得税など

相続財産売却で利益が出た場合、所得税と住民税、復興特別所得税がかかります。

 

長期譲渡所得に当たる場合、所得税は15%、住民税は5%の税率が譲渡所得にかかります。

 

短期譲渡所得に当たる場合、長期譲渡所得よりも税率が高く所得税は30%、住民税は9%の税率となります。
復興特別所得税の税率は、2.1%です。

 

譲渡価格から取得費と譲渡費用および特別控除額を差し引いた額が譲渡所得になり、譲渡所得に上記の税率を乗じます。


譲渡所得に乗じる税率は、不動産を売却した年の1月1日現在を基準として所有期間が判断されます。

 

所有期間が5年以下の不動産を売却して譲渡益が出た場合は短期譲渡所得の税率、所有期間が5年を超える不動産の売却は長期譲渡所得の税率となります。

 

なお、被相続人の所有期間を引き継げることも覚えておきましょう。

 

相続財産を譲渡したときの税金の特例

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例と、相続税が取得費に加算される特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)を見ておきましょう。

 

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例は、譲渡所得から上限3,000万円を控除できるという特例です。

 

相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

 

空き家の要件 現在は空き家となっている建物やその敷地を売ったこと
居住用財産であったことの要件 被相続人が相続の開始の直前において住んでいたこと
建築年月日 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
分譲マンションでないこと 一戸建てであること
その他 ・相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間の売却であること

この他にも、同一敷地内に親の家と子の家がある場合の制限などがあるので、この特例の適用を考える場合は国税庁や税理士に確認しましょう。

 

次に、相続税が取得費に加算される特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)を受ける条件は以下の通りです。

 

相続税が取得費に加算される特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)

 

特例の概要 相続または遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を、一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算
特例を受けるための要件 ・相続や遺贈により財産を取得した者であること
・その財産を取得した人に相続税が課税されていること
・その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡であること。
注意点 株式等の譲渡による事業所得及び雑所得は適用対象外
相続財産を譲渡したときのその他の費用

相続財産を譲渡したときは、ここまでご説明した費用の他にも、不動産業者に仲介を依頼した場合の仲介手数料、契約書の印紙代などがかかります。
また、譲渡の前提として測量や古い家の解体、リフォームをした場合はその費用がかさむかもしれないので注意しましょう。


譲渡の前提として代金は安くてもよいから、測量や解体、リフォームはしないという約束で相続財産を売却することも可能です。

 

相続財産を譲渡する場合は多額の費用がかからないように、不動産会社などと相談することをおすすめします。

 

 

遺産相続手続きにかかる費用を個別に詳しく見てきました。
遺産に現金が多ければ、手続き費用の支払いが大きな負担にはならないかもしれません。

 

しかし、遺産に不動産が多い場合は登録免許税だけでも相当な額になるケースがあります。

 

また、遺言がないケースで、遺産分割協議や相続人全員の合意が整わないと被相続人の預貯金を解約できません
この場合は急ぎ、一定割合に応じて預貯金を払い戻す手続きをとらないと、相続手続きを進める相続人が立て替えなければならなくなります。

 

遺産相続手続きは煩雑で時間もかかります。
また、相続人同士の考えがまとまらないケースでは手続きがスムーズに進みません。

 

遺産相続を早期に終わらせるためにも、弁護士など専門家に遺産相続手続きを依頼することをおすすめします。

【遺産相続手続きの費用(2)】自力で行う・専門家に依頼したときの登記費用の相場

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相続財産に不動産がある場合に、不動産を相続した方が相続登記を自分で行った場合と、司法書士に依頼した場合の相場を確認します。

登記に必ずかかる費用と司法書士報酬の違い

前回解説した通り、不動産の相続登記をする場合は、登録免許税を法務局に納めなければなりません。登録免許税は自分で登記をする場合でも、不動産登記をする場合にかかる税金です。

つまり、司法書士に依頼しない場合でも、不動産登記の登録免許税はかかるので注意しましょう。

登録免許税のパターン

では、登録免許税はどのくらいの割合で、何を基準に課税されるのでしょうか。

登録免許税の課税標準と税率

相続登記に関する登記の課税標準は、土地や建物の固定資産課税台帳の登録価格です。

固定資産税課税台帳の価格が高ければ登録免許税は高くなります。
ただし固定資産課税台帳の登録価格は、時価よりも通常は低いのが特徴と言えます。

 

相続関連の登録免許税の税率

 

登記原因 税率
相続 1000分の4
遺産分割 1000分の4
遺贈 1000分の20

 

相続パターンによる違い

相続による登記と一口に言っても、実は何パターンかあります。

 

登記原因 相続パターン
相続 法定相続分で登記
・登記前に遺産分割協議が整い、法定相続分と異なる割合で登記
遺産分割 法定相続分で登記した後に遺産分割協議が整い、「遺産分割」を原因として登記
遺贈 遺言による遺贈の登記

 

つまり、被相続人が亡くなった後、遺産分割協議前に相続を原因とする登記をしてしまうと、1度の相続で2回の登録免許税がかかるということです。

 

また、遺言により遺贈された財産を取得した人は遺贈による登記を行うので、通常の相続登記よりも登録免許税は高くなります。

 

数次相続の登録免許税の特例

数次相続の登記が終わっていない場合、いっぺんに登録免許税がかさむケースもあります。たとえば、祖父が亡くなったけれども祖父名義の不動産の相続登記が終わっていないうちに、祖父の相続人である父親も叔父や叔母も亡くなったようなケースです。

このケースでは原則として、父親の相続人である自分や、叔父・叔母の相続人である従姉妹たちで、何度か相続登記をしなければなりません。相続登記の件数が多ければ多いほど、登録免許税は高くなります。

 

しかし、数次相続の登記による登録免許税の負担を軽減する措置があります。

 

数次相続登記の登録免許税の免税措置

 

適用されるケース ・相続によりにより土地の所有権を取得した場合 (相続人に対する遺贈も含む)
・当該個人が当該相続による当該土地の所有権の移転の登記を受ける前に死亡したとき
いつまでに登記するか 平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間
登録免許税 免税される

なお、中間の相続人が生前に土地を売却していた場合でも特例を受けられます。

 

この特例を受けるには、相続による所有権移転の登記を法務局に申請するときに、申請書に所定の事項を書くなどの条件があります。詳細は司法書士や法務局に確認することをおすすめします。


相続関連の登記を司法書士に依頼するときの報酬相場

相続関連の登記を司法書士に依頼すると、登録免許税の他に報酬がかかります。

相続登記の報酬は司法書士事務所により幅がありますが、周辺事務を合わせると5万円から12万前後と設定する司法書士が多いでしょう。


ただし、次の事情により司法書士報酬は変動しますので、一律にいくらと言う事はできません。

  • 相続不動産の数
  • 戸籍謄本など取り寄せ代行の有無
  • 数次相続か否か、遺産分割協議が未了か


司法書士に相続登記を依頼する際は、報酬見積もりを出してもらうとよいでしょう。その際、固定資産税納税通知書を司法書士に見せると、登録免許税も併せて算出した見積書をもらえます。

【遺産相続手続きの費用(1)】概要と費用一覧

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 多くの遺産相続手続きでは、相続したことを証する書面を公的機関や金融機関などに提出しなければなりません。

 

一般的な遺産の相続手続きにかかる公的機関や金融機関などに支払う手数料もかかります。

まず、遺産相続の手続きにかかる費用の概要を確認します。

 

遺産相続の手続きにかかる費用の一覧

遺産に含まれる財産の一般的なものは以下の通りです。

 

  • 預貯金債権
  • 株式
  • 宝石、骨董等
  • 不動産

 

遺産の種類は他にも考えられますが、上記の中で相続手続きが必要な預貯金、株式、車、不動産について、手続きにかかる費用を見ておきましょう。

 

遺産相続の手続きでは戸籍謄本代がかさむ

遺産相続手続きの際は、金融機関や法務局などに相続したことを証する書面一式を提出しなければなりません。

 

相続したことを証する書面とは、戸籍関係書類と住民票関係です。

遺産相続手続きの際は、相続人が生まれたときから死亡するまでの戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍、住民票の除票を市区町村から取り寄せなければなりません。

 

戸籍謄本などの公的な書類は1通だけ取得するのであれば、費用が大きな負担となることはありません。
しかし、被相続人が結婚や離婚、転籍が多かった場合、その数は膨大になります。

 

また、相続人の戸籍謄本や住民票、相続人の印鑑証明書も必要です。

 

相続手続きに必要な一般的な書類と取得費用

書類の種類 費用
被相続人の除籍謄本、改製原戸籍 1通750円程度
被相続人の住民票の除票 1通300円程度
相続人の戸籍謄本 1通450円程度
相続人の住民票、印鑑証明書 1通300円程度
固定資産評価証明書(不動産を相続する場合) 各市区町村規定による

 

注意しなければならないのは、除籍謄本が数十通にのぼるケースもあるということです。

 

特に数次相続や被相続人の兄弟姉妹が相続人の場合、他に相続人がいないことを証するために相当数にのぼる除籍謄本、改製原戸籍が必要です。

 

そのようなケースでは通常、除籍謄本、改製原戸籍を遠方の市区町村から郵送で取り寄せるので、小為替手数料が小為替1通につき100円かかります。

 

除籍謄本、改製原戸籍だけで2~3万円かかるケースもあります。
金融機関などから除籍謄本、改製原戸籍はできるかぎり原本を返してもらったり、法定相続情報証明を法務局に申請したりして、費用を抑えるとよいでしょう。

 

法定相続情報証明の申請は無料ですが、弁護士や司法書士行政書士などの専門家に依頼する場合は報酬がかかります。

 

なお、原本は無条件に返してもらえるわけではありません。
金融機関、法務局、税務署など相続手続きをする機関ごとにルールが違いますので、確認することをおすすめします。

 

財産ごとの相続手続きの費用

一般的な遺産相続手続きに必要な費用は、以下の通りです。

 

財産ごとの相続手続きの費用

被相続人名義の預貯金の解約 手数料なし(ただし残金の振込手数料など必要)
株式の相続手続き費用 相続人名義の振替先口座開設費用など(各証券会社規定による)
車庫証明の取得費用(2,500から3,000円程度) ・ナンバープレートを変更する時の費用(1,500円から2,000円程度)
不動産 ・登録免許税 (相続を原因とする場合は固定資産評価額の1000分の4を乗じた額)

 

 

その他の費用

その他にも、次のような費用がかかります。

  • 遺言書検認費用
  • 相続放棄や限定承認の費用
  • 専門家に依頼する費用

 

自筆証書遺言または秘密証書遺言がある場合、家庭裁判所の検認を受けなければなりません。

検認の費用は遺言書(封書の場合)1通につき収入印紙800円分、連絡用の郵便切手代です。

 

また、相続放棄や限定承認する場合も、収入印紙代と郵便切手代がかかります。

 

 

参考:相続放棄・限定承認で家庭裁判所に納める費用

 

  収入印紙 郵便切手代
相続放棄 800円分(申述人1人につき) 連絡用の郵便切手必要
限定承認 800円分

 

専門家に依頼する費用は、財産それぞれの手続きを個別に依頼するか、パックで依頼するかで違います。
行政書士司法書士、弁護士などに預貯金・株式・車の相続手続きを依頼する場合、報酬は2万円から10万円程度でしょう。

 

ただし、不動産の相続登記については司法書士や弁護士に別途依頼することになるので、詳しくは次回の記事で紹介します。

 

遺留分侵害額請求権の時効・期限と行使するときの注意点

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遺留分侵害額請求権の時効や期限

遺留分侵害額請求権には時効があります。
大きくは、下記2点のようなケースです。

 

 

  1. 相続開始及び遺留分を侵害する遺贈、贈与があったことを知った日から1年間、遺留分侵害請求権を行使しない場合は、時効により消滅します。
  2. 相続開始時から10年経過した場合、遺留分侵害額請求権は消滅します。

 

これらのケースについて詳しく説明します。

 

(1)相続開始及び遺贈、贈与があったことを知った日から1年間

相続開始は分かりやすいと思いますが、遺贈、贈与について補足しておきましょう。

 

遺贈というのは、被相続人遺言書によって受遺者へ遺産を渡すことです。
通常は、被相続人の遺産は相続人が受け継ぐことになりますが、遺産の全て又は一部を相続人以外に相続させることもできます。
被相続人が、生前お世話になった人へ遺産を相続させたいと考える場合などに、遺言書により財産を遺贈することができます。

 

贈与とは、この場合生前贈与のことを指します。
被相続人が生きている間に、相続人などに財産を渡す行為を贈与といいます。
遺留分請求の対象となるのは、被相続人に関する相続開始前1年以内に贈与されたものです。

 

また、相続が開始する前1年を超える贈与であったとしても、被相続人及び贈与を受けた者が遺留分を侵害している事実を知りながら行った贈与である場合は、遺留分侵害額請求の対象となります。

 

1年の消滅時効のカウントがいつから始まるかについてですが、単純に贈与や遺贈があったことを知った時というわけではありません。
相続財産に対する自分の遺留分が侵害されて、その贈与や遺贈が遺留分侵害額請求の対象となっていることを知った時からです。

 

実際には「知った」について厳密な規定があるわけではなく、ある程度漠然とした起算点となります。
ですから、遺留分侵害額請求を行う側としては、原則として被相続人が亡くなった日から1年間で時効消滅するものとして考えておいた方がよいでしょう。

 

(2)相続開始時から10年間

遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分の対象となる遺贈、贈与があったことを知らないまま10年経過した場合も、遺留分侵害額請求権を行使することができなくなります。
受遺者(遺贈や贈与を受けた人)も、長期間何も請求されていないのに、いつまでも請求権だけが残っても困りますので、10年で時効となります。

 

ここで注意していただきたいのは、相続開始時から10年経過した場合の時効は、消滅時効ではなく、除斥期間という解釈になっているということです。

 

遺留分侵害額請求権の消滅時効除斥期間の違いですが、消滅時効には「時効の中断」という概念がありますが、除斥期間にはその概念がありません。
相続開始時から10年経過すると、途中何があっても時効が中断することなく、請求する権利を失うということになります。

 

遺留分侵害額請求の時効を中断させる方法

説明した通り、相続開始時から10年の時効については除斥期間という解釈のため、時効を中断させる方法はありません。
ですが、相続開始及び遺贈、贈与があったことを知った日から1年間の消滅時効に関しては、時効を中断させる方法があります。

 

遺留分侵害額請求権は形成権ですから、一度でも遺留分侵害額請求権を行使すれば、時効を中断させ権利の消滅を防ぐことができます。
このときの権利行使は、証拠が残る内容証明郵便の送付により行うことをおすすめします。

 

時効以外で遺留分請求できない場合も

遺留分侵害額請求権は、1年の消滅時効、10年の除斥期間以外でもなくなる場合があります。

 

それは「相続人の廃除」という制度です。
「相続人の廃除」とは、被相続人への虐待や侮辱、非行等を行った相続人に対して、被相続人が生前に、または遺言によって家庭裁判所にその相続人の廃除を請求するものです。
この廃除により、虐待等を行った相続人の相続権を奪うことができます。

 

被相続人の兄弟姉妹には遺留分がありませんので、遺言によって兄弟姉妹に財産を相続させないことができます。
一方、それ以外の配偶者、子、直系尊属といった相続人の遺留分は、遺言によっても侵害することができません。
ですが「相続人の排除」を行った場合は、財産を相続させないだけでなく、遺留分侵害額請求権も奪うことになります。

 

ただし「相続人の廃除」は、家庭裁判所への請求が必要で、かつ簡単に認められるものではありません。
なぜなら、相続には相続人の生活を保障するためという側面があるからです。
家庭裁判所への請求や遺言によって、簡単に相続人の権利を奪えるようでは、相続人の生活を保障することができないからです。

 

遺留分侵害額請求権を行使するときの注意点

権利行使するときの注意点を確認しておきましょう。

 

時効に関する勘違いに注意

遺留分が関係するような相続問題の場合、元々の遺言書が無効であるとして遺言無効確認の調停や訴訟を起こすことがあります
しかし、注意していただきたいのは遺言無効確認の調停や訴訟を起こしても、遺留分侵害額請求権の消滅時効は中断しないということです。

 

一見、同じようなことを争っていると思われるかもしれませんが異なった手続きですから、遺言無効確認の調停や訴訟を起こす場合でも、それとは別にあらかじめ遺留分侵害額請求権の行使のために内容証明郵便を送付することを忘れないようにしましょう。

 

また、遺言無効確認だけでなく、遺贈や贈与の無効を主張する場合も同じです。
遺贈や贈与が無効ということになれば、遺留分侵害額請求権を行使する必要はありませんが、無効とならなかった場合は、遺留分侵害額請求権を行使する可能性があります。
そのため、遺贈や贈与が無効であることを主張し調停や訴訟を行う場合でも、遺留分侵害額を請求する旨の内容証明郵便を送付しておくことで、遺贈や贈与の無効が認められなかったときでも消滅時効を回避することが可能です。

 

弁護士への依頼も検討

遺留分侵害額請求権の行使は裁判所への手続きなどは必要ありませんし、証拠を残すために内容証明郵便を送付するくらいですから、必ずしも弁護士に依頼しなければならないわけではありません。

遺留分の侵害について相手方と協議する際も、状況によっては弁護士に依頼してしまうと相手方が態度を硬化させてしまい、話し合いがうまく進まない場合もあります。

ですが、相手方と円滑に協議が進まない場合は、弁護士への依頼も検討しましょう。

例えば、交渉する相手方と直接話し合いをすることが困難な場合もあるでしょう。
もともと不仲であるとか、当人同士では具体的な話ができないとか、仕事が忙しく話し合いの機会が作れないといった場合は、弁護士に依頼することでスムーズに話が進むこともあります。

 

また法律知識や専門知識のない一般人同士では、具体的にどう話し合いを進めたらよいのか分からないというケースも多いでしょう。

話し合いが進まないまま時間だけが過ぎていくということもあります。
遺留分侵害請求に限りませんが、裁判所の調停や裁判に発展する前に話し合いで決着することが時間と費用の節約になります。

早期解決を望む場合も、弁護士への依頼を検討してみてください。