認知症と診断された人は数百万人を超え、医学の劇的な進歩などがなければ今後も数十年単位で増えていくと想定されています。
少子高齢化、長寿化なども大きく関係し、人口全体に対する認知症有病割合・絶対数ともに増加していく見込みです。
認知症にまつわる問題は介護や家族の人間関係など多岐に渡りますが、このブログで扱っている「相続」にも関係してくる問題です。
ここでは特に、認知症の人が相続人となる場合に生じる問題およびその対策について解説していきます。
認知症の人でも相続はできるのか
認知症と診断された人の親や兄弟等が亡くなったとき、その認知症の人が財産を引き継ぐ立場(相続人)になることがあります。
しかし認知症によって判断能力を欠いているような場合には、法的行為を有効に単独で行うことができないケースがあります。
そのため法定後見という制度が用意されており、本人の判断能力に応じて後見人・保佐人・補助人を付けることができます。
後見人等は判断能力が不十分あるいは欠いている本人に代わり意思表示などを行います。
それでは本人に後見人が付いていない場合、相続はできるのでしょうか。
結論から言うと、相続することは可能です。
相続はもともと本人の意思表示を要することなく財産を引き継ぐという性格を持っておりますので、相続人が認知症の人であっても、法定されている割合に応じて財産は引き継がれます。
他に相続人がいる場合もあるかと思いますが、それらの人たちと共に共同相続人として財産を分けることになります。
遺産分割協議をするには代理人が必要
相続自体、相続人が認知症であっても問題なくできます。
しかし実情としては遺産分割協議を行うケースが多く、この場合には認知症の相続人に代理人が必要となります。
遺産分割協議は、引き継ぐ財産を共同相続人間でどのように配分するのかを決める話し合いのことです。
法定相続分で決するのではなく、自分たちで、誰がどのような財産をどれだけもらうのかを決めたい場合に行われます。
ここで問題になるのが認知症の相続人がいる場合の遺産分割協議です。
すでに説明した通り、判断能力を欠いている者は単独で有効な法律行為をすることができませんので、後見制度による代理人を用意しなくてはなりません。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければならず、悪い意図がなかったとしても他の相続人が代わりに本人の記名押印をすることは許されません。
遺産分割協議書作成にあたり私文書偽造罪などの犯罪が成立してしまう可能性もあるため、遺産分割協議を行う場合には注意が必要です。
そこで次に、代理人として動いてくれる後見人を付けるにはどうすればいいのか説明していきます。
後見人を付ける手続
相続人の中に認知症の人がいる場合、遺産分割協議をするため、後見人と呼ばれる代理人等を付けなければなりません。
そこで後見人を付ける方法ですが、家庭裁判所への申立てを要します。
認知症による判断能力を失っている本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対し行います。この申立てをできるのは本人の配偶者や4親等内の親族などです。
一部親族以外の者からも申立てをする権利が認められています。
申立を行うのに必要なのは以下のものです。
- 申立書
- 手数料
- 郵便切手
- 診断書
- 戸籍謄本
- その他本人の財産に関する資料等
手数料には申立手数料と登記手数料があります。
いずれも大きな金額ではありません。
また、本人に対しすでに後見人が付いていないことなど、これらに関する登記がされていないことを示す登記事項証明書も提出します。
申立が認められるにはその後裁判所からの質問に応じたり、本人に対し鑑定をしたりしなければなりません。
後見人を付けるときの問題点
家庭裁判所に後見開始審判を申立てても、実際に選任され、遺産分割協議に取り掛かるまで1か月以上はかかると言われています。
しかも代理人として登場してきた後見人は、親族でもない外部の専門家です。
費用もかかりますし、見ず知らずの専門家とともに話し合いをしなければなりません。
家族がすでに後見人となっている場合でも、相続においては認知症を発症している本人と利害が対立する立場になるため、別途特別代理人を立てなければなりません。
そのため相続が始まってから申立をするのではなく、事前に信頼できる専門家に後見人になってもらうことが望ましいでしょう。
これが難しい場合には、下の「遺言」を作成しておきましょう。
遺言でトラブルが防止できる
「遺言」によって財産の配分を決めるのであれば、相続人の中に認知症の人がいたとしても申立てなどの手続を要することなく相続を進めることができます。
遺言は被相続人がする行為ですので、相続人の判断能力などは関係ありません。
ただし遺言の作成方法は法律で厳密に定められておりますので、せっかく作った遺言が無効とならないように気を付けましょう。
被相続人が1人で作成することは可能ですが、どのように作成しなければならないのか、専門家に相談しておくのが一番です。