自らの死後、妻や夫、配偶者が生活をしていけるのか心配している方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その場合、生前贈与や遺贈といった形で、財産を渡すことが可能です。
しかし実際に相続が始まると、遺産分割において「持戻し」というものが行われ、配偶者に多く財産を残すことができないケースもあります。
そこでここでは、持戻しとは何か、そして配偶者に多くの財産を残すためにはどうすればいいのか、説明していきます。
「持戻し」とは?
遺産分割では、相続人に生前贈与が行われていたり、遺贈がなされていたりするときには「持戻し」が行われます。
持戻しとは、贈与等がなされた財産を、遺産の前渡しとして扱い、相続財産にみなすということです。
つまり、いったん渡された財産を、相続人みんなで分け合う相続財産へ戻すことになります。
持戻しをされたみなし相続財産のもと、法定相続分が決せられますので、この場合配偶者は生前贈与を受けていなかったときと財産状況が変わらないという結果になってしまいます。
「持戻し」されないためには
持戻しはいかなる場合にでも強制的に行われるものではありません。
被相続人があらかじめこうしたルールを知り、「持戻しに反対する」という意思表示をしていたときには持戻しは行われません。
このことを「持戻し免除」と言います。
「持戻し」が起こらないケース
持戻しは被相続人の意思表示によって免除することができますが、実際には、こうした意思表示がされていないことが多いです。
法律の知識がないとなかなかこういった対処をできないかと思います。
ただ、被相続人が意思表示をしていなくても持戻し免除がなされるケースがあります。
それは以下の要件を満たしたときに限られます。
- 婚姻期間が20年以上であること
- 遺贈または贈与された財産が、居住の用に供する建物や敷地であること
これは近年の民法改正によって新たに作られたルールです。
配偶者に生前贈与をする場面とは、通常その後の生活を保障するために行うためであると考えられます。
そこで一定条件をクリアしたときには事前の持戻し免除の意思表示がされていなくても、意思表示があったものと推定されることとなっています。
配偶者が受け取る財産の計算例
持戻しに関する基本的なルールをここまでで説明してきました。
次に、持戻しが行われるときと持戻しが免除されたときとで分け、具体的な金額の算定をしてみます。
どれほどの金額の差が生じるのか把握し、免除の重要性を理解していきましょう。
「持戻し」が行われるパターン
被相続人Aの持つ財産として、8000万円相当の自宅と1億円の預貯金があると想定します。
婚姻期間10年の配偶者Bがおり、Aは、Bに対し所有する自宅を生前贈与。
その後Aは死亡し、配偶者のBと、子のCが相続人となったとします。
被相続人であるAの手元にある財産は預貯金の1億円分ですが、持戻しにより、配偶者Bに渡った8000万円分の家が相続財産として含まれることとなります。
そのため、1億8000万円がみなし相続財産となり、ここからBとCは分け合うことになるのです。
よって、BとCは9000万円相当を相続することになりますが、Bはすでに生前贈与として8000万円分をもらっているため、新たに取得するのは1000万円分だけとなってしまいます。
Cには9000万円が渡ります。
このように、被相続人のAとしては配偶者Bに多く財産を残そうとして生前贈与をしたつもりでも、持戻しによって意味がなくなってしまうのです。
この場合、Aは事前に持戻し免除の意思表示をしておく必要がありました。
「持戻し」が行われないパターン
次に、持戻しが行われないパターンを考えてみましょう。
上の例同様、被相続人Aに8000万円相当の自宅と1億円の預貯金があり、配偶者Bに自宅を生前贈与したとします。
ただし婚姻期間は20年以上です。
Aが死亡し、Bと子のCが相続人になりました。
被相続人であるAの手元にある財産は預貯金の1億円分で、ここからBとCは分け合うことになります。
それぞれ5000万円を相続により新たに取得し、配偶者のBの取得する分は、生前贈与によって手に入れた自宅の価格を合わせると1億3000万円ということになります。
被相続人Aが、Bのその後の生活を心配して贈与をしていたのであれば、その意図に沿った相続になったと言えるでしょう。
この事例では、Aが事前に持戻し免除の意思表示をしていませんが、上述の通り、免除の意思表示をしたものと推定されることでこのような結果となっています。
まとめ
上の2例で異なるのは婚姻期間のみです。
持戻しという観点から、遺産分割における配偶者への優遇を考えたとき、この婚姻期間が非常に重要であることが分かったかと思います。
また、贈与等をした対象が「居住のために用いる建物または敷地」でなければなりません。
長年連れ添った夫または妻であれば、贈与しても問題ないということではなく、特定の者に限られますのでこの点にも注意が必要でしょう。