相続が始まると、遺産を巡って様々なトラブルが生じることがあります。
特に遺産分割前は権利関係が不安定であるため、相続に関するルールをよく理解しておかないと対処が難しいです。
そこで、ここでは遺産分割前に起こるトラブルについて、知っておくべきルールを説明していきます。
被相続人のお金を使うケース
被相続人の財産については、相続が開始された時点で各共同相続人が権利を受け継ぐ場合と、遺産分割の対象として自動的に分割されない場合に分けることができます。
ここでは貸金債権と預貯金債権に着目し、相続開始から遺産分割までに各共同相続人がする権利の行使について解説します。
貸金債権について
例えば相続人が複数いる場合において、遺産として貸金債権があるとします。
この場合、相続人の1人が単独でこの権利を行使し被相続人が貸していたお金を返すよう債務者に請求することはできるのでしょうか。
実は貸金債権については遺産分割前でも単独でその権利を行使することができると考えられています。
判例では遺産分割前の貸金債権につき、相続開始により各共同相続人がその相続分に応じて権利を受け継ぐと評価されています。
そのためこのケースでは、他の相続人の同意を得る必要はありません。
預貯金債権について
貸金債権については上のように判断されますが、預貯金債権は別です。
預貯金債権は相続開始により当然に相続分に応じた分割がされることはないと考えられており、遺産分割をすることで権利を受け継ぐものとされています。
ただし近年の法改正によって、遺産分割前でも預貯金の一部なら引き出してもいいというルールが定められています。
例えば被相続人が死亡すると口座が凍結されてしまうことがほとんどですが、そうすると相続人が生活できなくなってしまう事態も起こり得ます。
被相続人に生活を支えてもらっていた場合や、高い葬儀費用の支出ができないという場合もあるでしょう。
そこで法定相続分から算出される一定額までなら、遺産分割を待たずして、預貯金債権を行使できるようになっています。
具体的な金額としては、預貯金債権の額に各々の法定相続分を乗じた額、これの3分の1までとなっています。
なお、遺産分割より前に行使した分は、もちろん後の遺産分割で考慮されます。
そのため先に行使した者が得をするということはありません。
行使した預貯金債権は、遺産分割において、その者が取得した財産とみなされるのです。
不動産に関する問題
不動産は価額も大きいため相続においてトラブルの要因となりやすい財産です。
いくつかのケースで分けて考えていきましょう。
不動産は相続人で共有となる
相続財産は共同相続人がいる場合、共有することになります。
不動産も例外ではなく共有という扱いになり、遺産分割前には、自己の持分に応じた処分をすることも可能となるのです。
そのため遺産である不動産について、まだどのように分けるか話し合っていないから処分してはいけないというはないのです。
ただし、法定相続分から算出される自分の持分を超えてまでは処分することは許されません。
不動産の引渡しについて
被相続人が不動産の引渡し債務を負っているケースもあるでしょう。
この場合引渡し債務がどのように相続されるかご存知でしょうか。
民法では不可分債務が共同相続された場合、共同相続人は不可分債務を負うと規定されています。
つまり性質上分けることができない債務については全員がその債務を負っているものとして扱うということです。
そして不動産の引渡しという行為は性質上不可分です。
引渡債務は不可分債務ということになり、これを相続した共同相続人は、いずれもが引渡しの義務を負うことになります。
次に、相続人の1人が単独で相続不動産を占有している状況を考えてみましょう。
1人だけが家に居座りこんでおり明け渡してくれないケースです。
この者が過半数に満たない持分しか持っていないのであれば、当該占有は正当な権限に基づいているとは言えません。
しかし問題は、持分が過半数を超える者だからといっても、それだけで他の相続人に明け渡しを請求する権限を持つわけではないということです。
よって、遺産分割前に1人が勝手に相続不動産を占有していても、ただ占有をしているだけの者に対し明け渡しを請求することはできないということになります。
まとめ
遺産分割をする前は、相続人間でどのように財産を分配するのか確定されていないため、権利関係が不安定となります。
誰がどの権利を、どれだけ持っている状態なのか、これを知っておく必要があります。
特に預貯金債権については、突然相続が始まった場合に一切の行使が許されないとなると残された家族の生活が危ぶまれることになります。
そこで自由な行使が許されているわけではありませんが、一部遺産分割の前でも権利の行使が認められ、後の遺産分割で調整をするという運用ができるようになっています。
こうしたルールがあることを理解し、自身が相続人となった場合に参考にするといいでしょう。