相続が開始されると、亡くなった方の遺産をどのように分けるのか話し合う機会があります。
話し合いで特に揉めることもなく、また、複雑な財産状況でなければ基本的にトラブルにはなりませんし、すんなり遺産の分配処理を終えることができるでしょう。
しかし場合によっては協議が難航し、とりあえず一部の遺産だけを先に分割しておきたいということも起こり得ます。
ここでは遺産の一部分割をすることの意味や利点、一部だけ分割するときの注意点などを紹介していきます。
遺産の一部だけを分割することは認められている
遺産分割は、一般的には一度にその全部を確定することが望ましいとされています。
そしてその際には遺産となる物や権利の性質・種類・相続する人の年齢および職業、心身の状態や生活状況など、色んな要素を考慮した上で行います。
しかし、一度にすべての財産につき分割方法を決められるとも限りません。
例えば預貯金に関しては誰にどれだけ分配するのか決めやすいですが、不動産は金銭ではないため簡単に分けることができません。
不動産を取得する人はいっきに大きな財産を手に入れることになりますがその価額は未来にかけて変動しますし、管理にも手間がかかります。
加えて税金など維持費の面も無視できません。
そのため預貯金については話がついているにもかかわらず、不動産があることで遺産分割がなかなかできないということもあるのです。
ここで検討するのが遺産の一部分割です。
一部の分割については近年明記された
昔から、遺産の一部だけを先に分割するというやり方は行われていました。
ただしそれは実務上の話であって、法律として明記されたルールではありませんでした。
そこで近年の法改正では一部分割に関するルールが明記されるに至っています。
その条文によると、「相続人同士の遺産分割協議でいつでも遺産の一部の分割をすることができる」とされています。
ただしあらゆる場合に許されるわけではなく、被相続人(亡くなった方)が遺言にこれを認めないと書かれているような場合には相続人が話し合って先に一部を確定させることはできません。
もともと被相続人の財産であり、その分け方に関してはその者の意思が強く影響するからです。
当事者だけで話がつかないなら家庭裁判所へ
話し合いで揉めてしまい、協議が調わないときには各相続人は家庭裁判所に分割を請求することができます。
そしてこの場面でも一部の分割を目的に請求することができます。
ただ、一部を分割することによって他の相続人の利益を害してしまうのであればこれはできません。
これは遺産分割自体、様々な事情を考慮した上で最終的には相続人間で公平な分配がなされることが求められているからです。
そのため裁判所が公平な分配ができなさそうと思われる状況では一部分割の審判をすることはできないのです。
先に一部だけ分割するときの注意点
一部だけ先に分割することで、残りの財産に集中した話し合いができるようになるというメリットがあります。
一方で残った財産の性質によってはかえって問題がこじれてしまうこともあるため、注意が必要です。
例えば分けやすい預貯金を先に一部分割し、不動産だけを残して協議をする場面を考えてみましょう。
通常は不動産AとBに価格差がある場合でも、その差を埋めるように預貯金を分ければいいところ、先に預貯金を確定させてしまっているとそのバランスを取るのが難しくなってしまうのです。
そのため一部分割をするときでも、ある程度の預貯金は確定させずに置いといて、不動産との調整が図れるようにしておくべきです。
まとめ
遺産の一部を先に分割することは可能です。
そうすることで争いのない部分のみを先に分割し、残部を後でゆっくりと協議することもできるようになります。
しかし不動産を残部とするような場合には何を先に分割するのかよく検討する必要があるでしょう。