【遺産相続手続きの費用(3)】費用は誰が払う?手続きを進めるときの注意点

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遺産相続手続きにかかる費用を誰が払わなければならないかについては、特に決まりはありません。

 

遺産相続手続きにかかる費用は誰が払うか

一般的に不動産の相続登記については、不動産を取得する相続人がその費用を負担します。
その他の相続に関しても、それぞれの相続人が手数料などを負担することになります。


しかし介護費用や医療費の支払いなどは、被相続人の看護をしていた相続人が一時的に負担することが多いのではないでしょうか。

 

そこで民法では遺産分割前でも、被相続人の預貯金の一部を払い戻せるようにルールをもうけています。

 

遺産分割前に被相続人の預貯金の一部を払い戻す方法

 

家庭裁判所の判断を経ずに金融機関の窓口における支払い 預貯金債権の一定割合(金額による上限あり)については、金融機関の窓口における支払を受けられる
家庭裁判所による判断 ・遺産の分割の審判または調停の申立があった場合
・相続人の生活費の支弁その他の事情により、遺産に属する預貯金債権を申立人が行使する必要があると認めるときは、その申立により、遺産に属する特定の預貯金債権の全部または一部をその者に仮に取得させることができる
・他の共同相続人の利益を害するときを除く




なお、相続税についても誰が払うか法律の規定はないため、相続人同士でよく話し合わなければなりません
遺産相続手続きにかかる費用の支払いでもめそうなときは、弁護士など専門家に相談するとよいでしょう。


遺産相続手続きを進めるときの注意点

遺産相続手続きを進める上で、相続税がかかります。
また、相続財産を売却すると譲渡所得税なども課税されるので注意が必要です。

相続税と譲渡所得税などについて確認しておきましょう。

 

相続税と税理士報酬

遺産を相続すると、相続財産が課税されない金額の場合を除き、相続税を支払う必要があります。
相続税の税率は以下の通りです。

 

相続税の税率
法定相続分に応ずる取得金額 税率 税額控除
1,000万円以下 10%
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円
引用「相続税の税率」(国税庁)

 また、相続税申告を税理士に依頼すると税理士報酬がかかります。

税理士報酬は税理士事務所が独自に設定しているので、依頼する税理士に確認しましょう。

 

相続財産を譲渡したときの税金や費用

相続財産を譲渡したときの税金と、その他の費用について見ていきます。

 

譲渡所得税など

相続財産売却で利益が出た場合、所得税と住民税、復興特別所得税がかかります。

 

長期譲渡所得に当たる場合、所得税は15%、住民税は5%の税率が譲渡所得にかかります。

 

短期譲渡所得に当たる場合、長期譲渡所得よりも税率が高く所得税は30%、住民税は9%の税率となります。
復興特別所得税の税率は、2.1%です。

 

譲渡価格から取得費と譲渡費用および特別控除額を差し引いた額が譲渡所得になり、譲渡所得に上記の税率を乗じます。


譲渡所得に乗じる税率は、不動産を売却した年の1月1日現在を基準として所有期間が判断されます。

 

所有期間が5年以下の不動産を売却して譲渡益が出た場合は短期譲渡所得の税率、所有期間が5年を超える不動産の売却は長期譲渡所得の税率となります。

 

なお、被相続人の所有期間を引き継げることも覚えておきましょう。

 

相続財産を譲渡したときの税金の特例

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例と、相続税が取得費に加算される特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)を見ておきましょう。

 

被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例は、譲渡所得から上限3,000万円を控除できるという特例です。

 

相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例

 

空き家の要件 現在は空き家となっている建物やその敷地を売ったこと
居住用財産であったことの要件 被相続人が相続の開始の直前において住んでいたこと
建築年月日 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
分譲マンションでないこと 一戸建てであること
その他 ・相続の開始の直前において被相続人以外に居住をしていた人がいなかったこと
平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間の売却であること

この他にも、同一敷地内に親の家と子の家がある場合の制限などがあるので、この特例の適用を考える場合は国税庁や税理士に確認しましょう。

 

次に、相続税が取得費に加算される特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)を受ける条件は以下の通りです。

 

相続税が取得費に加算される特例(相続財産を譲渡した場合の取得費の特例)

 

特例の概要 相続または遺贈により取得した土地、建物、株式などの財産を、一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算
特例を受けるための要件 ・相続や遺贈により財産を取得した者であること
・その財産を取得した人に相続税が課税されていること
・その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡であること。
注意点 株式等の譲渡による事業所得及び雑所得は適用対象外
相続財産を譲渡したときのその他の費用

相続財産を譲渡したときは、ここまでご説明した費用の他にも、不動産業者に仲介を依頼した場合の仲介手数料、契約書の印紙代などがかかります。
また、譲渡の前提として測量や古い家の解体、リフォームをした場合はその費用がかさむかもしれないので注意しましょう。


譲渡の前提として代金は安くてもよいから、測量や解体、リフォームはしないという約束で相続財産を売却することも可能です。

 

相続財産を譲渡する場合は多額の費用がかからないように、不動産会社などと相談することをおすすめします。

 

 

遺産相続手続きにかかる費用を個別に詳しく見てきました。
遺産に現金が多ければ、手続き費用の支払いが大きな負担にはならないかもしれません。

 

しかし、遺産に不動産が多い場合は登録免許税だけでも相当な額になるケースがあります。

 

また、遺言がないケースで、遺産分割協議や相続人全員の合意が整わないと被相続人の預貯金を解約できません
この場合は急ぎ、一定割合に応じて預貯金を払い戻す手続きをとらないと、相続手続きを進める相続人が立て替えなければならなくなります。

 

遺産相続手続きは煩雑で時間もかかります。
また、相続人同士の考えがまとまらないケースでは手続きがスムーズに進みません。

 

遺産相続を早期に終わらせるためにも、弁護士など専門家に遺産相続手続きを依頼することをおすすめします。