相続が始まると、そのまま権利も義務も引き継ぐほか、相続人には「限定承認」という手段も残されています。ここではその手続や、その後の効力について解説します。
限定承認とは
民法第922条に規定が置かれています。同条によると、これは「取得した財産の限度で債務等の弁済義務を負う」という承認の方法です。
何ら手続を取らなければこうした「限度」はなく、「無限」に権利も義務も引き受けることになります。
そうすると、多くの預貯金や不動産などを残している場合には大きな利益を得られる反面、多大な借金等を残した場合にはかえって財産がマイナスになってしまいます。
こういった状況を避けるために有効なのが、この限定承認だということです。
弁済すべきもの以上に財産が残っていれば相続人にとってプラスとなりますし、逆に弁済すべきものが多くあったとしても、それは引き継いだ財産でまかなえる程度に限られます。
万が一のリスクをなくすことができますので、複雑な権利関係を有している被相続人を持つ場合には有効な手段となるでしょう。
限定承認をする方法
複数人の相続人がいる場合、限定承認は全員でしなければなりません。
また、相続が始まったことを知ってから3ヶ月以内に財産目録を作成して家裁へと提出しなければなりません。
いつまでも悩んでいる暇はありませんし、財産状況を調査して目録を作成するなど、全員で協力して手続を進めていくことも大事です。
なお手続は亡くなった方の最後の住所を管轄とする家裁です。
費用はかかりますが、必要なのは収入印紙800円分と連絡用の郵便切手くらいですので大きな負担とはなりません。
申述書、その他戸籍謄本などの添付書類とともに手続を進めていきましょう。
一部が財産を隠した場合
相続人となる者が財産を勝手に隠したり、自分の利益のために消費したりすると、単純承認したものとみなされます(民法第921条)。
そうすると、限定承認の効力はどうなるのでしょうか。
全員でするものと定められているため、一部の背信的行為をした者のせいで、同条の規定によってみんなが限定承認できなくなったのでは適当とは言えません。
そこで民法第937条にこのケースにおける規定が置かれています。
(法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
第九百三十七条 限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第九百二十一条第一号又は第三号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。
一部の者に法定の単純承認が認められる場合、当該行為をした者だけがその相続分の範囲で責任を負うということです。