配偶者居住権の仕組みやルールについて紹介

 

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配偶者として相続前から住んでいる自宅でも、所有者が死亡することでその自宅が遺産分割の対象となり別の者が所有することがあります。
この場合でも残された配偶者に財力があれば特段大きな問題とはなりませんが、経済的に困っている状況だと、そのまま住み続けられるかどうかがその後の生活を左右する大きな問題となります。

そこで重要になるのが「配偶者居住権」です。
これは配偶者の居住権を長期的に保護するための仕組みです。
以下で詳しく見ていきましょう。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、配偶者が住んでいた自宅等の建物を、その後無償で使用できる権利のことです。

簡単に説明すると、遺産分割などによって別の者が自宅等建物の所有者になったとしても、亡くなった方の妻や夫はそのまま住み続けることができる権利ということです。

 

ただし配偶者であれば自動的に優遇され、そのまま所有することなく生活できるというわけではありません。
いくつかの条件を満たす必要がありますし、権利が認められたとしてもルールを守って過ごさなくてはなりません。

配偶者に住み続けてもらうための方法

この権利を生じさせるためには、被相続人がその旨を記載した遺言を作成していなければなりません。
例えば、自宅は別の者に相続させるが妻に当該権利を遺贈する、といった内容の遺言を作成します。

この他、遺言がない場合でも遺産分割によって取得させることが可能ですし、遺産分割の協議で話がつかない場合には家庭裁判所の審判を受けて設定することも可能性としては残されています。
ただし家裁に遺産分割の請求をするケースでは、相続人らの合意が当該権利取得には原則必要とされますので、ただ遺産分割の請求をしただけでは足りないことがあります。
そこで、配偶者本人が家裁に対し取得したい旨申し出るようにしましょう。


配偶者居住権は、配偶者にとっては非常にありがたいものですが、建物の所有者となった者にとってはかなりの負担を強いるものであるため、これだけ権利発生には慎重になるのです。

ただし相続人らの合意がない場合であっても、所有者の受ける不利益と比較した上でなお配偶者の生活を維持するために必要だと判断された場合には取得が認められるという例外もあります。

居住者が守るべきルール

当該権利が与えられた者はその建物の全部について無償で使用できるようになります。
しかもその期間は終身です。

ただしルールを守って使用しなければその権利は消滅しますので、あくまで所有者ではないということを理解しておく必要があります。
例えば建物の改築や増築を勝手にすることはできませんし、第三者に使用させることもできません。
生活のために必要な修繕であれば別ですが、基本的に所有者の承諾を得る必要があります。

これらのルールに違反したとき、所有者から是正の催告をされることがあります。
手順としてはまず是正の催告を受けることから始まります。
この段階で是正すれば問題ありませんが、告げられた一定期間内に対応しなければその権利を消滅させられますので、十分注意して管理するようにしましょう。

さらに権利が消滅したあと、原状回復義務を負いますので自宅を元通りの形に戻さなくてはなりません。
この点、通常の賃貸借と同じく損傷などがある場合には修理をして返すなどの対応が必要です。

雑に扱っていると返す際に大きな負担負うことになりますので注意しましょう。

また、通常の使用をしているだけでも長く住んでいると損耗や経年劣化を生じるかと思いますが、このようなものにまで回復の義務を負うことはありませんので、返却に対し過度な不安を抱く必要はないでしょう。

遺産を一部分割することの利点や注意点を紹介

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相続が開始されると、亡くなった方の遺産をどのように分けるのか話し合う機会があります。
話し合いで特に揉めることもなく、また、複雑な財産状況でなければ基本的にトラブルにはなりませんし、すんなり遺産の分配処理を終えることができるでしょう。

しかし場合によっては協議が難航し、とりあえず一部の遺産だけを先に分割しておきたいということも起こり得ます。

ここでは遺産の一部分割をすることの意味や利点、一部だけ分割するときの注意点などを紹介していきます。

遺産の一部だけを分割することは認められている

遺産分割は、一般的には一度にその全部を確定することが望ましいとされています。
そしてその際には遺産となる物や権利の性質・種類・相続する人の年齢および職業、心身の状態や生活状況など、色んな要素を考慮した上で行います。

 

しかし、一度にすべての財産につき分割方法を決められるとも限りません。
例えば預貯金に関しては誰にどれだけ分配するのか決めやすいですが、不動産は金銭ではないため簡単に分けることができません。
不動産を取得する人はいっきに大きな財産を手に入れることになりますがその価額は未来にかけて変動しますし、管理にも手間がかかります。
加えて税金など維持費の面も無視できません。

 

そのため預貯金については話がついているにもかかわらず、不動産があることで遺産分割がなかなかできないということもあるのです。

 

ここで検討するのが遺産の一部分割です。

一部の分割については近年明記された

昔から、遺産の一部だけを先に分割するというやり方は行われていました。
ただしそれは実務上の話であって、法律として明記されたルールではありませんでした。

そこで近年の法改正では一部分割に関するルールが明記されるに至っています。

その条文によると、「相続人同士の遺産分割協議でいつでも遺産の一部の分割をすることができる」とされています。

ただしあらゆる場合に許されるわけではなく、被相続人(亡くなった方)が遺言にこれを認めないと書かれているような場合には相続人が話し合って先に一部を確定させることはできません。
もともと被相続人の財産であり、その分け方に関してはその者の意思が強く影響するからです。

当事者だけで話がつかないなら家庭裁判所

話し合いで揉めてしまい、協議が調わないときには各相続人は家庭裁判所に分割を請求することができます。
そしてこの場面でも一部の分割を目的に請求することができます。

ただ、一部を分割することによって他の相続人の利益を害してしまうのであればこれはできません。

これは遺産分割自体、様々な事情を考慮した上で最終的には相続人間で公平な分配がなされることが求められているからです。

そのため裁判所が公平な分配ができなさそうと思われる状況では一部分割の審判をすることはできないのです。

先に一部だけ分割するときの注意点

一部だけ先に分割することで、残りの財産に集中した話し合いができるようになるというメリットがあります。
一方で残った財産の性質によってはかえって問題がこじれてしまうこともあるため、注意が必要です。

 

例えば分けやすい預貯金を先に一部分割し、不動産だけを残して協議をする場面を考えてみましょう。

通常は不動産AとBに価格差がある場合でも、その差を埋めるように預貯金を分ければいいところ、先に預貯金を確定させてしまっているとそのバランスを取るのが難しくなってしまうのです。

 

そのため一部分割をするときでも、ある程度の預貯金は確定させずに置いといて、不動産との調整が図れるようにしておくべきです。

まとめ

遺産の一部を先に分割することは可能です。
そうすることで争いのない部分のみを先に分割し、残部を後でゆっくりと協議することもできるようになります。

しかし不動産を残部とするような場合には何を先に分割するのかよく検討する必要があるでしょう。

相続人以外でも介護等の労務に対する特別寄与料がもらえる

 

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特別寄与料の仕組み

事例)Aに父Xと、配偶者B、子Cがいる場合を考えます。
Xが亡くなり相続が開始されましたが、BはXの療養看護に献身的に当たってくれたという事情があります。
そのためXの相続に関しBを考慮することはできないか?という問題です。

 

まず、前提として整理しておきたいのはこの場合の配偶者Bは相続人ではないということです。
そのためXの財産がBに流れることは基本的にありません。

 

しかし近年の法律改正により、Bにも一定の権利が認められる可能性も出てきています。

生前に貢献した者への救済

特別寄与料の仕組みが設けられています。

介護など、労務を提供したことによって被相続人の財産に特別の寄与をした親族は、それ相応の金銭の支払を請求できるという内容です。
ただし相続欠格者や廃除された者は除外されます。

 

つまり、上の事例においてBが特別寄与者として認められればCに支払いを請求することが可能となるのです。

 

ただしBの行為によって相続財産が維持もしくは増加したと言えなければなりません。
どんなことでもいいからとりあえずサポートをしていれば貰えるということではないのです。

そこで、Xとの関係性においてその貢献が一定の程度を超えたと言えるかどうかが重要になってくるでしょう。

親族の範囲

特別寄与料が認められるのは親族に限られます。
そこで親族と言えるのはどの範囲なのか見ていきましょう。
法律で厳密に定義されていますので、感覚的にその範囲を決めつけないように注意しなければなりません。

具体的には①6親等内の血族②配偶者③3親等内の姻族とされています。

例えば①に含まれるのはいとこやその孫など、③には義理の祖父母や兄弟姉妹の子、義理の親の兄弟までも含まれます。

 

こうして考えると、かなり広い範囲が該当することが分かるかと思います。

特別寄与に関するポイント

支払を請求できる期間には制限がある

当該規定による請求をすることで、生前介護などをしてきた親族が金銭を求めることができるようになります。

しかしこの支払に関して話し合いをしてもまとまらない可能性があります。

トラブルに発展してしまうおそれもあるでしょう。

そこで家庭裁判所へ、処分を求めることができるというルールも作られています。
どうしても話が付かないというのであれば家裁に判断をしてもらうことで解決できるのです。

 

しかしここで注意したいのは期間の制限です。

請求をできる期限を設けていないと様々な問題が生じてしまいますので、法律上も期間に制限を設けています。

 

具体的には、「相続開始と相続人を知ったときから6か月以内かつ「相続開始から1年以内です。
つまり最長でも1年です。相続が始まっていることを知らなかったとしても、1年を経過してしまったのであればその後請求はできなくなります。

 

そこで、誰が相続人なのか分からないまま期間が過ぎた場合を考えてみましょう。
相続開始から8か月経過して相続人を知った場合、そこから6ヵ月丸々の猶予は与えられず、残り4か月以内に請求をしなければその権利を失うことになります。

 

なお、家裁への請求後、具体的な金額に関しては家裁が裁量で決めることになります。

このケースでは自由に金額を設定することはできません。

対象者は親族だけ

前述の通り、特別寄与者となれるのは親族だけです。

当該規定によって、相続人ではない者でもその貢献に応じた金銭を受け取ることができるようになっていますが、どこまでもこれを認めてしまうと様々な弊害が生じてしまうからです。

例えば何の身分的な関係もない者を請求権者として認めてしまうと、支払いに関し紛争が複雑化し、問題解決まで時間がかかってしまう可能性が出てきます。

 

これに対し、親族の場合には介護等をするにあたって事前に契約を締結しておくなどの行為をするケースがあまりなく、救済の必要性が高いと考えられています。

遺贈のほうが優先される

相続が開始されるシーンでは、遺贈が発生していることもあり得ます。
この場合には特別寄与料はどうなるのでしょうか。

 

このときのルールに関しても規定が置かれています。
そこには、「財産から遺贈分を引いた残額を超えることはできない」と定められています。

つまり遺贈分が割合大きく、それ以外の財産が小さければ特別の貢献をしていたとしても受け取れる金銭はそれだけ小さくなってしまうということです。

 

なぜ遺贈のほうが優先されるのかと言うと、これは亡くなった人の意思表示によるものだからです。

相続人の負担割合

貢献をしていた者は、相続人に対しまずは請求をします。
相続人が1人であればそのままその者が負担をすることになりますが、複数人いる場合には全員で負担をすることになります。

 

ただしその負担割合は相続分に応じるとされています。

全額を人数分で分け、一律で負担をするわけではありません。

まとめ

かつては相続人にだけ「寄与分」が認められていましたが、近年「特別寄与料」として親族にまで範囲を広げた制度ができています。

これにより特別の貢献をした者が金銭を請求できるようになりました。

ただし、あくまでも請求権者になり得るのは親族だけということには注意が必要です。

遺留分の侵害を受けたときに取るべき対応

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遺留分の制度について

法律上、遺留分という最低限の相続分を確保する制度があります。

例えば遺言により財産がすべて第三者に渡ってしまうと残された配偶者等が生活できなくなることも起こり得ます。

そのため一定の範囲内で財産を確保するようになっています。

 

遺留分は、すべての法定相続人に認められるものではありません。

遺留分を有するのは、亡くなった人の配偶者、子供、および直系尊属です。

直系尊属とは、被相続人の父母や祖父母のことです。

 

引用:子供2人の場合の遺留分割合は?計算方法と遺言書への対策法|ベンチャーサポート法律事務所

 

こちらに記載があるように、兄弟姉妹には遺留分はありません。

 

遺留分が侵害される例

被相続人Aに妻と子が2人がいたとします。

しかしAは遺言で、全財産を第三者に遺贈する意思表示をしていました。

この場合、妻と子供の遺留分はどうなるのか、という問題です。

 

まず、遺留分として認められるのは財産全体の2分の1までです。

そして各人の具体的割合としては、配偶者その半分の4分の1、子もその半分ですが2人いるため全体の8分の1ずつを受け取れるはずです。

しかし遺言により遺留分が侵害されていますので、母や子は第三者に対し遺留分侵害額請求をすることになるでしょう。

 

この事例の他にも、死因贈与や生前贈与等でも侵害を受ける可能性があります。

なお、兄弟姉妹には遺留分がないため、これらだけが相続人の場合には侵害のおそれはありません。

どのような場合に「侵害」となるのか

1年、もしくは10年以内の行為

遺留分の算定においては、相続開始1年前にした行為に限ってその価額を算入するとなっています。

つまり、被相続人が亡くなる2年前に贈与をした場合は、原則侵害ということにはならないのです。

ただし、侵害をしてやろうという悪い意図のもと行った行為であれば別です。

当事者双方が、遺留分を受け取るべき権利者に損害を与えることになると分かって贈与をした場合には3年前でも10年前であってもここで言う「侵害」となります。

 

一方、相続人に対する特別受益の場合にはより厳しくなります。

1年ではなく、10年が算入期間となり、より「侵害」と言える範囲が広くなるのです。

 

しかしこれでも近年の法改正により緩和されています。

従来は10年という期限もなく算入されていました。

しかし期間の制限もなく侵害ということにしたのでは法的安定性を害することになってしまいますし、そもそもは遺留分制度から潜脱するのを防止することが目的ですので、無期限で生前贈与を算入する必要性はありません。

こういった背景があり改正がなされ、10年より過去のことなら侵害したことにはならないということになっています。

特別受益」の意味

特別受益とは、一部の相続人が遺贈または贈与により受けた特別な利益のことです。

遺留分侵害という観点から言えばさらに「婚姻・養子縁組のための贈与」と「生計の資本としての贈与」に分けることができます。

 

前者は、例えば婚姻の際の持参金や嫁入り道具などが当てはまります。

後者は、生活に役立つ財産上の給付のことです。

例えば、居住用の不動産を贈与することや、不動産を取得のために必要な金銭を贈与する行為などが例として挙げられます。

贈与の金額や目的から判断されますので、「扶養的金銭援助」を超えるレベルで与えているのであれば特別受益と評価されてしまう可能性が出てくるでしょう。

要は、相続分の前渡しと思われないようにしなければいけないのです。

遺留分減殺」からの変化

従来は遺留分の侵害に対し遺留分減殺」として対応をしていました。

これは権利者が贈与自体を物権的に減殺することを意味し、贈与された物を取り戻すということがなされていました。

価額賠償で対処されるケースもありますが、これは権利者が求めることではなく相手方に選択権があるものでした。

そのため、不動産が贈与された場合で価額賠償とならなければ共有となってしまうこともあったのです。

そうすると紛争の解決までの道のりが長くなってしまう問題も起こります。

 

そこで、近年の法改正により金銭の請求ができるように変わっています。

侵害を受けた権利者は侵害者に対し遺留分侵害額の請求」をすることになるため、「遺留分減殺」をするとは言わなくなりました。

 

このことにより、遺贈等の効力は残したまま権利者の救済が実現されます。

誰が負担をするか

遺留分侵害額の請求をしたとき、その支払いを負担すべき者には順序があります。

例えば侵害した者が1人であればその者が負担をして終わりですが、受遺者と受贈者が両方いる場合や受遺者が複数いる場合など、色んなケースがあります。

 

順序のルールを簡単に説明すると、まず受遺者が受贈者よりも先に負担をすることになっています。

そして複数の受遺者がいる場合や同時になされた贈与の受贈者が複数いる場合は、目的物の価額に応じて負担をします。

複数の受贈者がおりその贈与が同時でないならば、後の贈与に係る受贈者から負担をします。

まとめ

兄弟姉妹には認められませんが、遺留分の制度があることで法定相続人は最低限の財産を確保することができます。

遺言により別の者に渡すとされていても侵害があったと評価されれば遺留分侵害額を請求できるようになるのです。

相続人に対する贈与等であれば10年以内の行為を評価すればいいですが、その他の者が問題となっている場合には1年以内になされた行為に限られますので注意が必要です。

遺言執行者が注意すべきことと相続人との関係

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近年の法改正により、相続に関する規定も色々と変わっています。

「遺言執行者」に関しても例外ではなく、法的地位の明確化や権限に関する規定が新たに設けられました。

何のために存在し選ばれるのか、どんな効果を誰に及ぼすことができるのか、そしてどのような権限を行使できるのか、といったルールが色々と決まっています。

もちろんそのルールに従わなければトラブルに発展するかもしれませんし、訴訟を提起されるかもしれません。

まずは何者なのか簡単に説明し、選ばれた場合、手続を進めていく上でその者が注意すべきことなどを解説していきます。

ぜひ参考にしていただければと思います。

遺言執行者とは

ある亡くなった者が遺言を残しているとき、「遺言執行者」が選任されることがあります。

その名の通り遺言を執行する者であり、遺言に記された内容を忠実に実現することを仕事とします。

遺言の内容を実現するための権限を持つ

民法で執行者の権利義務を明確にしています。

要約すると「遺言通りの内容を実現するために必要な行為をする権限を有する」とあります。

この規定は近年の法改正によって明確化されたもので、注視すべきは相続人を満足させるために一連の手続を執行する訳ではないということです。

相続財産の管理やその他の行為も、全体の利害を意識しその調整をするといったことは目的とされていません。あくまで遺言を実現することが責務とされます。

この内容は判例によってすでに出されていた答えですが、これを条文上に明らかにしました。

相続人に対する効力

かつて相続人を代理する者とみなす旨規定されていました。

しかしこの条文も書き換えられ、執行者のした行為は相続人に対し直接効力を生じる、と意味が明確に記されることとなりました。

条文でこう規定しているように、執行者はただ遺言通りの内容を代わりに行うだけではなく、その行為がすべて相続人に対し直接影響する重大な立場であることを理解することが重要です。

そのため責任をもってその職務を全うしなければなりません。

特に以下の注意点には配慮が必要でしょう。

遺言執行者に選ばれた時の注意点

執行者に選ばれた場合、これをさらに別の者へ任せるのも可能です。

しかしトラブルが生じた際の責任問題に関しては理解しておくべきでしょう。

さらに職務を執行する上では、後述する相続人への通知義務も忘れてはいけません。

復任する場合

選任された者は、すでに亡くなった被相続人との間に特別の関係性があることを前提に、簡単に復任することができないとする運用がなされていました。

しかし法改正によって原則復任はできるものと変えられ、負担は軽減されます。

これは選任されたとしても法律の知識が足りないことが珍しくなく、十分な執行が期待できない場合もあるからです。

ただし復任は自己責任で行うこと、とも定められており、被復任者がミスを犯したときには本人が責任を取らないといけない事態も起こり得ます。

やむを得ない事由がある場合には責任は限定されますが、復任には慎重であるべきでしょう。

相続人への通知

民法では、執行者が任務を始めた際には相続人に遺言に記載されている内容を通知しないといけない旨規定されています。

これは、相続人に対する利害に配慮をした結果の規定です。

上述の通り執行者の行為はすべて相続人に影響しますし、その行為を相続人は妨げることが許されていません。

相続する人は原則執行者に逆らった行いができないうえに重大な利害関係を有するため、せめて遺言の内容は通知することと定められているのです。

選ばれた者は相続人に配慮し、しっかりとこの通知義務を果たすようにしましょう。

相続人との関係

前項で少し触れたように、相続人は執行者の行為を妨げることができません。

民法では「遺言の執行の妨害行為の禁止」として規定が設けられています。

そしてこれに違反した行為は無効になるとの定めもあります。

 

ここで問題となるのが、第三者が巻き込まれている場合です。

遺言に逆らって財産の処分等をした場合、この行為が絶対的に無効であるとすれば、利益を受けた第三者が損をすることがあります。

 

かつてはこの場合でも絶対的無効であるとの運用がなされており、第三者を保護することはできない状態でした。

しかし法改正により、何も知らない第三者であれば保護される旨が規定されました。

つまり第三者がいる場合にはなかったことにできないことになります。

 

また同条では、執行者がいても債権者は相続財産に関して権利を行使できるともあります。

つまり、相続人との関係においては絶対的に執行者の権限が優位となる一方で、何も知らない第三者や債権者との関係においては原則通りにはいかないということです。

まとめ

遺言を実現するための権限を持つ者が遺言執行者です。

相続人との関係においては、その者が抵触する行為をしてもこれを無効であると主張することができます。

ただし遺言の内容に関しては通知をしなければなりませんし、復任の際には自己責任であることを覚えておかなければなりません。

また第三者や債権者が絡む問題では、遺言の内容通りに進められない場合もあるでしょう。

選任された場合には、弁護士や行政書士などの専門家に相談して手続をすすめるべきです。

遺産分割前のトラブルを防ぐために知っておきたいルール

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相続が始まると、遺産を巡って様々なトラブルが生じることがあります。

特に遺産分割前は権利関係が不安定であるため、相続に関するルールをよく理解しておかないと対処が難しいです。

そこで、ここでは遺産分割前に起こるトラブルについて、知っておくべきルールを説明していきます。

被相続人のお金を使うケース

被相続人の財産については、相続が開始された時点で各共同相続人が権利を受け継ぐ場合と、遺産分割の対象として自動的に分割されない場合に分けることができます。

ここでは貸金債権と預貯金債権に着目し、相続開始から遺産分割までに各共同相続人がする権利の行使について解説します。

貸金債権について

例えば相続人が複数いる場合において、遺産として貸金債権があるとします。

この場合、相続人の1人が単独でこの権利を行使し被相続人が貸していたお金を返すよう債務者に請求することはできるのでしょうか。

実は貸金債権については遺産分割前でも単独でその権利を行使することができると考えられています。

判例では遺産分割前の貸金債権につき、相続開始により各共同相続人がその相続分に応じて権利を受け継ぐと評価されています。

 

そのためこのケースでは、他の相続人の同意を得る必要はありません。

預貯金債権について

貸金債権については上のように判断されますが、預貯金債権は別です。

預貯金債権は相続開始により当然に相続分に応じた分割がされることはないと考えられており、遺産分割をすることで権利を受け継ぐものとされています。

 

ただし近年の法改正によって、遺産分割前でも預貯金の一部なら引き出してもいいというルールが定められています。

例えば被相続人が死亡すると口座が凍結されてしまうことがほとんどですが、そうすると相続人が生活できなくなってしまう事態も起こり得ます。

被相続人に生活を支えてもらっていた場合や、高い葬儀費用の支出ができないという場合もあるでしょう。

そこで法定相続分から算出される一定額までなら、遺産分割を待たずして、預貯金債権を行使できるようになっています。

具体的な金額としては、預貯金債権の額に各々の法定相続分を乗じた額、これの3分の1までとなっています。

 

なお、遺産分割より前に行使した分は、もちろん後の遺産分割で考慮されます。

そのため先に行使した者が得をするということはありません。

行使した預貯金債権は、遺産分割において、その者が取得した財産とみなされるのです。

不動産に関する問題

不動産は価額も大きいため相続においてトラブルの要因となりやすい財産です。

いくつかのケースで分けて考えていきましょう。

不動産は相続人で共有となる

相続財産は共同相続人がいる場合、共有することになります。

不動産も例外ではなく共有という扱いになり、遺産分割前には、自己の持分に応じた処分をすることも可能となるのです。

そのため遺産である不動産について、まだどのように分けるか話し合っていないから処分してはいけないというはないのです。

ただし、法定相続分から算出される自分の持分を超えてまでは処分することは許されません。

不動産の引渡しについて

被相続人が不動産の引渡し債務を負っているケースもあるでしょう。

この場合引渡し債務がどのように相続されるかご存知でしょうか。

民法では不可分債務が共同相続された場合、共同相続人は不可分債務を負うと規定されています。

つまり性質上分けることができない債務については全員がその債務を負っているものとして扱うということです。

そして不動産の引渡しという行為は性質上不可分です。

引渡債務は不可分債務ということになり、これを相続した共同相続人は、いずれもが引渡しの義務を負うことになります。

 

次に、相続人の1人が単独で相続不動産を占有している状況を考えてみましょう。

1人だけが家に居座りこんでおり明け渡してくれないケースです。

この者が過半数に満たない持分しか持っていないのであれば、当該占有は正当な権限に基づいているとは言えません。

しかし問題は、持分が過半数を超える者だからといっても、それだけで他の相続人に明け渡しを請求する権限を持つわけではないということです。

よって、遺産分割前に1人が勝手に相続不動産を占有していても、ただ占有をしているだけの者に対し明け渡しを請求することはできないということになります。

まとめ

遺産分割をする前は、相続人間でどのように財産を分配するのか確定されていないため、権利関係が不安定となります。

誰がどの権利を、どれだけ持っている状態なのか、これを知っておく必要があります。

特に預貯金債権については、突然相続が始まった場合に一切の行使が許されないとなると残された家族の生活が危ぶまれることになります。

そこで自由な行使が許されているわけではありませんが、一部遺産分割の前でも権利の行使が認められ、後の遺産分割で調整をするという運用ができるようになっています。

 

こうしたルールがあることを理解し、自身が相続人となった場合に参考にするといいでしょう。

遺産分割で配偶者を少しでも優遇する方法とは

 

 

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自らの死後、妻や夫、配偶者が生活をしていけるのか心配している方もいらっしゃるのではないでしょうか。

その場合、生前贈与や遺贈といった形で、財産を渡すことが可能です。

しかし実際に相続が始まると、遺産分割において「持戻し」というものが行われ、配偶者に多く財産を残すことができないケースもあります。

そこでここでは、持戻しとは何か、そして配偶者に多くの財産を残すためにはどうすればいいのか、説明していきます。

 

「持戻し」とは?

遺産分割では、相続人に生前贈与が行われていたり、遺贈がなされていたりするときには「持戻し」が行われます。

持戻しとは、贈与等がなされた財産を、遺産の前渡しとして扱い、相続財産にみなすということです。

つまり、いったん渡された財産を、相続人みんなで分け合う相続財産へ戻すことになります。

 

持戻しをされたみなし相続財産のもと、法定相続分が決せられますので、この場合配偶者は生前贈与を受けていなかったときと財産状況が変わらないという結果になってしまいます。

「持戻し」されないためには

持戻しはいかなる場合にでも強制的に行われるものではありません。

被相続人があらかじめこうしたルールを知り、「持戻しに反対する」という意思表示をしていたときには持戻しは行われません。

このことを「持戻し免除」と言います。

「持戻し」が起こらないケース

持戻しは被相続人の意思表示によって免除することができますが、実際には、こうした意思表示がされていないことが多いです。

法律の知識がないとなかなかこういった対処をできないかと思います。

 

ただ、被相続人が意思表示をしていなくても持戻し免除がなされるケースがあります。

それは以下の要件を満たしたときに限られます。

  • 婚姻期間が20年以上であること
  • 遺贈または贈与された財産が、居住の用に供する建物や敷地であること

これは近年の民法改正によって新たに作られたルールです。

配偶者に生前贈与をする場面とは、通常その後の生活を保障するために行うためであると考えられます。

そこで一定条件をクリアしたときには事前の持戻し免除の意思表示がされていなくても、意思表示があったものと推定されることとなっています。

配偶者が受け取る財産の計算例

持戻しに関する基本的なルールをここまでで説明してきました。

次に、持戻しが行われるときと持戻しが免除されたときとで分け、具体的な金額の算定をしてみます。

どれほどの金額の差が生じるのか把握し、免除の重要性を理解していきましょう。

「持戻し」が行われるパターン

被相続人Aの持つ財産として、8000万円相当の自宅と1億円の預貯金があると想定します。

婚姻期間10年の配偶者Bがおり、Aは、Bに対し所有する自宅を生前贈与。

その後Aは死亡し、配偶者のBと、子のCが相続人となったとします。

 

被相続人であるAの手元にある財産は預貯金の1億円分ですが、持戻しにより、配偶者Bに渡った8000万円分の家が相続財産として含まれることとなります。

そのため、1億8000万円がみなし相続財産となり、ここからBとCは分け合うことになるのです。

よって、BとCは9000万円相当を相続することになりますが、Bはすでに生前贈与として8000万円分をもらっているため、新たに取得するのは1000万円分だけとなってしまいます。

Cには9000万円が渡ります。

 

このように、被相続人のAとしては配偶者Bに多く財産を残そうとして生前贈与をしたつもりでも、持戻しによって意味がなくなってしまうのです。

この場合、Aは事前に持戻し免除の意思表示をしておく必要がありました。

「持戻し」が行われないパターン

次に、持戻しが行われないパターンを考えてみましょう。

上の例同様、被相続人Aに8000万円相当の自宅と1億円の預貯金があり、配偶者Bに自宅を生前贈与したとします。

ただし婚姻期間は20年以上です。

 

Aが死亡し、Bと子のCが相続人になりました。

被相続人であるAの手元にある財産は預貯金の1億円分で、ここからBとCは分け合うことになります。

それぞれ5000万円を相続により新たに取得し、配偶者のBの取得する分は、生前贈与によって手に入れた自宅の価格を合わせると1億3000万円ということになります。

被相続人Aが、Bのその後の生活を心配して贈与をしていたのであれば、その意図に沿った相続になったと言えるでしょう。

 

この事例では、Aが事前に持戻し免除の意思表示をしていませんが、上述の通り、免除の意思表示をしたものと推定されることでこのような結果となっています。

まとめ

上の2例で異なるのは婚姻期間のみです。

持戻しという観点から、遺産分割における配偶者への優遇を考えたとき、この婚姻期間が非常に重要であることが分かったかと思います。

また、贈与等をした対象が「居住のために用いる建物または敷地」でなければなりません。

長年連れ添った夫または妻であれば、贈与しても問題ないということではなく、特定の者に限られますのでこの点にも注意が必要でしょう。

遺言で相続分が指定されているときでも登記は忘れずに!

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財産等に不動産や債権債務があり、相続が複雑になりそうなときでも、被相続人は遺言をもってトラブルを事前に防ぐことができます。

しかし遺言によって防ぐことのできるトラブルは主に相続人間の話であり、債権者や第三者との間に生ずるトラブルまで完全に防ぐことはできません。

そこで今回は、遺言で相続分の指定がある場合でも、トラブルを防ぐために相続人が取るべき対策についてかんたんに紹介していきます。

相続後の不動産登記の重要性

複数の相続人が存在する場合、不動産は法定相続分に応じて持分が決定されます。

ただし遺言で不動産は子Aに、預貯金は子Bに、といった形で指定しておけばシンプルに財産の引継ぎができるようになります。

 

ただ、第三者に対し当該不動産の所有権を主張する場合、問題となることがあります。

遺言で不動産の所有権をすべて引き継いだAでも、その登記をしていないと、遺言の存在を知らない第三者から見ると真の所有者かどうか判別がつきません。

そのため登記をしていない場合、第三者に対しては法定相続分である2分の1(相続人がAとBのみの場合)しか主張ができません。

 

実はこの問題、近年の法改正によってできたルールです。

古いルールを知っている方は特に、従前のルールと混乱しないよう、知識のアップデートする必要があるでしょう。

不動産をめぐる具体例

被相続人Xが死亡し、その子であるAとBが相続人となったケースを考えましょう。

法定相続分は各自2分の1になりますが、Xによる遺言の指定により、相続財産である土地はAが相続するものとされています。

それにもかかわらず、Bが、土地を単独所有とする旨の登記をしてしまいました。

さらにBはCにこの土地を売り、登記の移転も済ませました。

 

このときAは、土地所有権の全部をCに対抗することができるのでしょうか?

結論から言えば、土地の全部について所有権を持っているという主張は通りません。

Aは、法定相続分である2分の1の範囲でしか対抗できないのです。

 

かつては、この例においてAが登記をしていなくても、その全てを対抗できるとされてきました。

しかしながらこうした運用をしてしまうと、Cの法的地位が不安定となってしまうため、ルールが変更されるに至っています。

遺産分割の場合も同じ

上述の通り、遺言で土地の全部を引き継ぐとの指定があっても法定相続分を超える部分については登記が必要ということでした。

このルールは、遺産分割で1人が土地の全てを取得したときも同じです。

土地の全部につき所有権を有している旨を登記しなければ、第三者に対してこれを対抗することはできません。

 

逆に債権者の立場から考えると問題はシンプルに解決できるようになります。

相続が発生した場合、遺言や遺産分割という内部的な割合が取り決められたとしても、登記をもとに判断すればいいのです。

債権を相続したときも同じ

法改正がなされる前から、遺産分割については、相続財産が法定相続分を超えるとき、登記によって対抗要件を備えていなければなりませんでした。

改正によって遺言で指定されていたときも同様に登記が必要ということになりましたが、遺言により債権(預貯金債権など)を取得した場合も同じように変わります。

つまり、法定相続分を超える債権を取得した者は、対抗要件を具備しなければその全部を主張することはできなくなるのです。

ただし不動産ではないため対抗要件は登記ではありません。

 

債権の取得については、債務者に「通知」をする必要があります。

これは相続に限った話ではなく、債権を譲渡したときの基本的なルールです。

そしてこの基本的なルールに則ると、複数の相続人がいる場合、その全員から債務者に対し通知をしなければなりませんでした。

このような運用をしていると、せっかく遺言で債権を取得したにもかかわらず共同相続人全員の協力を得て通知をしてもらわなければならず、非常に手間です。

 

そこで、このルールも改正され、債権を取得した相続人が通知を出せばいいということになりました。

ただし遺言の内容を債務者に示した上での通知でなければなりません。

そうすればその通知は、共同相続人全員が債務者に通知をしたものとみなされます。

なお、遺産分割で法定相続分を超える取得をしたときも同様です。

債務の相続について遺言があるときの注意

これまでは相続人がプラスの財産を取得する場面に言及してきました。

しかし相続では債務としてマイナスの財産を取得することもあります。

そして債務についても遺言で指定をすることができ、法定相続分とは異なる引継ぎがなされることもあります。

 

ただこの場合、注意すべきことがあります。

遺言はここまでに説明してきた通り、相続人間を強く縛るものであり、対外的には対抗要件を備えてようやくその内容を主張できるということでした。

債務の相続においても似た現象が起こり、債権者が特に指定相続分を承認していない限り、法定相続分に応じた債務の履行をすることができます。

 

つまり、遺言でいっさいの債務を取得しないことになっていても、債権者から請求をされることが起こり得るということです。

この点しっかりと理解し、慌てることのないようにしましょう。

相続手続きは自分でできるのか、専門家に頼むべきポイントを紹介

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相続が開始されると、特に関係者が多い場合や財産が多い場合には専門家に依頼して手続きを進めるのが一般的です。

しかし行政書士司法書士等に頼むのにも費用がかかります。

そこで、自分で手続きを進めることはできるのか?と考える人もいるでしょう。

 

ここでは自分だけで手続きに取り掛かった場合、どのような点で困るのか、また専門知識なしに進めるのが難しい手続きについても紹介していきます。

各段階で躓くポイント

まずは基本的な流れに沿って説明していきます。

戸籍謄本の収集

相続人を調査するにあたり戸籍謄本を集める必要があります。

本来、それほど難しい作業ではありませんが、被相続人が生前戸籍の転籍を繰り返していた場合などには大変な作業となります。

またその調査において連絡が取れない相続人が出てくることもしばしばです。

自身の知らない相続人や、長らく連絡を取っていない相続人などがいるとその後も続く相続手続きがなかなか進められなくなります。

しかも役所は平日しか受け付けていないため、会社員の人ならわざわざ休まなければなりません。

遺産分割の話し合い

分配する財産について話し合わなければ法定の相続割合に応じて相続がなされますが、多くの場合、遺産分割協議によって調整がなされます。

しかし自分だけで手続きに取り掛かっていると、この話し合いの場でトラブルに発展する可能性が高くなってしまいます。

大きなお金が動く場ですので、その分け方に納得できない相続人が1人でもいると揉めてしまいます。

また共同相続人の全員が納得していたとしても、相続人の配偶者や子どもなどが文句を言ってくることも珍しくありません。

法的には相続人でない者が同意をしなくても問題はありませんが、その後の人間関係などが悪化する可能性があります。

そのため、専門家を第三者の立場として置き、アドバイスをもらいながら話を進めていくことが望ましいでしょう。

財産の名義変更

被相続人の財産を引き継いだ場合、名義を変更する手続も必要になります。

大別すると不動産の名義変更、そして不動産以外の名義変更です。

不動産の場合、建物や土地の所有権移転登記をしなければなりません。

しかし不動産関連では自分で調べようにも専門用語が多く進めるのが難しいでしょう。

しかも間違ったやり方をしてしまい所有権の主張ができなくなってしまうと、非常に大きな損失にも繋がりやすいため慎重にならなくてはなりません。

登記に関しては司法書士に頼みましょう。

不動産以外のものとは、例えば預貯金や自動車、保険などです。

すべて自分だけでやるには集める書類の量も種類も多すぎて、手間がかかり過ぎてしまいます。

一日仕事を休んだところで、完結できるとも限りません。

書類集めから銀行等への訪問、相続人全員の署名捺印をもらうなど、やることは多岐に渡ります。

一つ一つ難易度の高い作業ではありませんが、労力がかかり過ぎてしまいますので、専門家に依頼することをおすすめします。

専門性の高い手続き

上述の手続きは、手間や時間がかかり過ぎてしまうという観点から躓くポイントをいくつか挙げてきました。

これに対し以下では、手続きの専門性の高さから難易度が高く、専門家に頼んだほうがいいという手続きを紹介していきます。

相続税の申告

相続税の申告は税理士に依頼するべきです。

その理由は、短期間で適切な申告をしなければならないということと、やり方次第で大きな損失が発生してしまうということにあります。

また申告にあたり知っておかなければならない法知識も幅が広く、しっかりと手続きを理解して進めなければなりません。

例えば民法相続税法、そして節税のための実務的な知識も備えていることが望ましいです。

しかし相続開始を知ってから学び始めたのでは時間が不十分です。

専門家でなければ難しいと言えるでしょう。

他の相続人が協力してくれないときの対応・

遺産分割協議など、各手続きで共同相続人の同意を得なければならない場面もあります。

このようなとき、他の相続人が協力をしてくれないと思い通りには進められず、時間もかかってしまいます。

また明確な意思表示をしてくれないケースでも問題になりやすいです。

揉めてしまった場合や、もしくは何もアクションを起こしてくれず協力してくれない相続人がいる場合などには専門家のアドバイスを受けて進めていきましょう。

行方不明者がいる場合の手続き

生死不明、所在も不明という問題は意外と多くあります。

行方不明者に対する法制度も整備されており、これの調査自体がそれほど困難になるわけではありません。

しかし行方不明者がいることによって他の手続へ影響が及び、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し出なければならないなどの手間がかかってしまいます。

国際結婚をしているケース

国際結婚をしており、外国籍の方が亡くなった場合、その国における法律を調べなければなりません。

日本の法律を知っているだけでは対応できず、海外の法律にも精通していなければなりません。韓国籍など、事例の多いケースでは対応もしやすくなりますが、これまでに事例の少ないケースだと調査に時間が多く要してしまいます。

そのため、日本国籍の方が亡くなった場合の相続手続きに比べて翻訳なども併せると手間が増え、難易度もかなり高くなります。

個人事業主がすべき相続対策と手続の基本

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個人事業主被相続人となる場合、会社勤めをしていた人とは財産状況が異なり、手続が複雑になることが考えられます。

そこでまずは個人事業主被相続人となった場合の相続がどのようになるのか説明し、事業主側がすべき事前対策、相続人側がするべき手続きの基本を解説していきます。

個人事業主における相続の基本

個人事業を営んでいた人が亡くなり、相続をすることになった場合、財産の範囲で悩む人もいるかと思います。

個人の財布に入っているようなお金や預貯金等はもちろん、通常の相続と変わる点はありません。

相続人にすべて引き継がれます。

 

問題は事業用の財産です。

例えば起業をしていた場合などには、その会社が法人格を取得しており、会社の財産は個人の財産とは完全に区別されます。

これに対し個人事業ではこのように区別がなされません。

つまり、その事業主が事業用の銀行口座を作っていても、相続においてはすべて事業主個人の財産と変わりないということです。

事業用資産と明らかに分かるような場合でも関係ありません。

 

ここで気を付けたいのは、事業用の財産には相続人にとってプラスのものばかりではないということです。

事業の継続のため確保しているプラスの財産もあるかもしれませんが、取引先への支払いが残っていることや、金融機関からの借り入れがあることも珍しくありません。

これらもマイナスの財産として相続の対象となります。

個人事業主が注意すべきこと

個人事業を営んでいる人は、自身の財産を引き継ぐ者のために、事前の対策をとっておくことが望ましいです。

なぜなら上述の通り、債務を含む事業上の財産もすべて引き継がれることになり、取引先との関係もあることから複雑な手続を任せることになるからです。

行政書士などの専門家に相談することで解決できることも多くありますが、負担を少しでも軽くし、トラブルを起こさないためには事業主本人が準備しておくことが一番です。

債権債務関係の情報共有

通常の相続と異なるのは取引先が存在するという点にあります。

つまり事業上の債権債務関係が多くあるため、単にマイナスの財産が存在するというだけでなく、それらを整理していくのが大変な作業になってくるのです。

どこと、どのような取引をしていたのか、情報の共有ができるよう整理しておくようにしましょう。

そのためには顧客の名簿を作成しておくといいでしょう。

 

他にも情報共有という観点から、事業用財産の目録の作成、業務管理簿の作成などもしておくべきです。

どのような仕事を請け負っていたのかが分かることで発注先に迷惑をかけずに済みます。

事業用に利用していた口座やクレジットカードもあるかと思います。

これらのログイン情報等も共有できるようにし、相続人が財産の棚卸をする際にかかる負担を軽減してあげましょう。

遺言の作成

遺言を作成することは個人事業主に関係なくトラブル防止に役立つ手法です。

 

特に、事業主の場合、事業用資産を後継者に承継したいというケースもあります。

これを実現するため遺贈という形で承継させることも可能です。

ただし法定のやり方で間違いのないようにしなければならず、行政書士等の専門家の力を借りながら作成するようにすべきです。

法人化

株式会社などの事業主体を立ち上げることで、複雑な債権債務関係を相続させずに済みます。

毎年の利益の程度などによっては節税できることもありますので、法人化することのメリット・デメリットを考慮しながら、法人化も視野に入れてみましょう。

相続人側で必要な手続

ここまでは個人事業主が自らできる対策を説明してきました。

しかし相続人としても手続の流れを知っておくことが大切です。

特に、被相続人個人事業主であった場合の注意点などに注目しながら説明していきます。

事業用資産の把握

相続が開始されたことを知ってから、まずは相続人の調査を行います。

戸籍謄本等を取り寄せ、誰が共同相続人となるのか確認していきます。

 

その後、引き継ぐことになる財産を調査していくことになりますが、個人事業主被相続人のときには事業用資産の把握が特に重要になります。

金融機関からの借り入れ、取引先との関係においける債権や債務の存在などがあります。

従業員を雇っていた場合には賃金の支払い債務もあります。

遺産分割協議

相続人が複数いる場合、遺産をどのように分けるのか話し合いをします。

事業主であれば共同で経営をしていた者や後継となる者も存在するかもしれません。

しかしすでに説明した通り、個人事業では通常の相続と同じように親族等しか相続人にはなれません。

そのため事業用の資産でも仕事仲間等へは配分されません。

ただし遺言によって指定されていることもあるかもしれませんので、注意が必要です。

事業用口座等の解約や名義変更

引継ぎを受けた者は、取引に使われていた口座等の解約もしくは名義変更などをしなければなりません。

店舗を借りていた場合には賃借人としての立場も承継することになります。

なお、事業も引き継いで続けていることができますが、事業内容によっては許認可を要する場合もあります。

このとき、そのまま業務ができるとは限りませんので、行政書士等の専門家に相談するようにしましょう。