個人事業主が被相続人となる場合、会社勤めをしていた人とは財産状況が異なり、手続が複雑になることが考えられます。
そこでまずは個人事業主が被相続人となった場合の相続がどのようになるのか説明し、事業主側がすべき事前対策、相続人側がするべき手続きの基本を解説していきます。
個人事業主における相続の基本
個人事業を営んでいた人が亡くなり、相続をすることになった場合、財産の範囲で悩む人もいるかと思います。
個人の財布に入っているようなお金や預貯金等はもちろん、通常の相続と変わる点はありません。
相続人にすべて引き継がれます。
問題は事業用の財産です。
例えば起業をしていた場合などには、その会社が法人格を取得しており、会社の財産は個人の財産とは完全に区別されます。
これに対し個人事業ではこのように区別がなされません。
つまり、その事業主が事業用の銀行口座を作っていても、相続においてはすべて事業主個人の財産と変わりないということです。
事業用資産と明らかに分かるような場合でも関係ありません。
ここで気を付けたいのは、事業用の財産には相続人にとってプラスのものばかりではないということです。
事業の継続のため確保しているプラスの財産もあるかもしれませんが、取引先への支払いが残っていることや、金融機関からの借り入れがあることも珍しくありません。
これらもマイナスの財産として相続の対象となります。
個人事業主が注意すべきこと
個人事業を営んでいる人は、自身の財産を引き継ぐ者のために、事前の対策をとっておくことが望ましいです。
なぜなら上述の通り、債務を含む事業上の財産もすべて引き継がれることになり、取引先との関係もあることから複雑な手続を任せることになるからです。
行政書士などの専門家に相談することで解決できることも多くありますが、負担を少しでも軽くし、トラブルを起こさないためには事業主本人が準備しておくことが一番です。
債権債務関係の情報共有
通常の相続と異なるのは取引先が存在するという点にあります。
つまり事業上の債権債務関係が多くあるため、単にマイナスの財産が存在するというだけでなく、それらを整理していくのが大変な作業になってくるのです。
どこと、どのような取引をしていたのか、情報の共有ができるよう整理しておくようにしましょう。
そのためには顧客の名簿を作成しておくといいでしょう。
他にも情報共有という観点から、事業用財産の目録の作成、業務管理簿の作成などもしておくべきです。
どのような仕事を請け負っていたのかが分かることで発注先に迷惑をかけずに済みます。
事業用に利用していた口座やクレジットカードもあるかと思います。
これらのログイン情報等も共有できるようにし、相続人が財産の棚卸をする際にかかる負担を軽減してあげましょう。
遺言の作成
遺言を作成することは個人事業主に関係なくトラブル防止に役立つ手法です。
特に、事業主の場合、事業用資産を後継者に承継したいというケースもあります。
これを実現するため遺贈という形で承継させることも可能です。
ただし法定のやり方で間違いのないようにしなければならず、行政書士等の専門家の力を借りながら作成するようにすべきです。
法人化
株式会社などの事業主体を立ち上げることで、複雑な債権債務関係を相続させずに済みます。
毎年の利益の程度などによっては節税できることもありますので、法人化することのメリット・デメリットを考慮しながら、法人化も視野に入れてみましょう。
相続人側で必要な手続
ここまでは個人事業主が自らできる対策を説明してきました。
しかし相続人としても手続の流れを知っておくことが大切です。
特に、被相続人が個人事業主であった場合の注意点などに注目しながら説明していきます。
事業用資産の把握
相続が開始されたことを知ってから、まずは相続人の調査を行います。
戸籍謄本等を取り寄せ、誰が共同相続人となるのか確認していきます。
その後、引き継ぐことになる財産を調査していくことになりますが、個人事業主が被相続人のときには事業用資産の把握が特に重要になります。
金融機関からの借り入れ、取引先との関係においける債権や債務の存在などがあります。
従業員を雇っていた場合には賃金の支払い債務もあります。
遺産分割協議
相続人が複数いる場合、遺産をどのように分けるのか話し合いをします。
事業主であれば共同で経営をしていた者や後継となる者も存在するかもしれません。
しかしすでに説明した通り、個人事業では通常の相続と同じように親族等しか相続人にはなれません。
そのため事業用の資産でも仕事仲間等へは配分されません。
ただし遺言によって指定されていることもあるかもしれませんので、注意が必要です。
事業用口座等の解約や名義変更
引継ぎを受けた者は、取引に使われていた口座等の解約もしくは名義変更などをしなければなりません。
店舗を借りていた場合には賃借人としての立場も承継することになります。
なお、事業も引き継いで続けていることができますが、事業内容によっては許認可を要する場合もあります。
このとき、そのまま業務ができるとは限りませんので、行政書士等の専門家に相談するようにしましょう。