どんな財産が相続税の課税対象になる?

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身近な方が亡くなられたとき、相続に伴い相続税という税金が課税され、これを納めなければならないことがあります。

これは、財産が引き継がれることに起因する課税です。

そこでここではどのような財産が相続税の課税対象となるのかを整理していきます。

 

相続で受け取った遺産全般が課税対象

亡くなった方が持っていた財産は相続人等に引き継がれます。

そしてその財産に対して限定的に課税がなされるわけではなく、基本的には遺産広く課税の対象になるということを覚えておきましょう。

 

ただし、課税の対象になり得る財産を受け取ったからといって、必ずしも納税するとは限りません。様々な控除の制度が設けられており、誰にでも適用される基礎控除だけでも3,600万円以上が設定されているからです。

そのため実際に相続税を納税するケースは相続全体の半分にも満たないのです。

 

よく問題となる課税対象の財産

遺産が広く課税対象となりますが、価値がそれほど大きくないものに関しては問題となる可能性も低いです。

これに対して「よく遺産となるものであり、かつ、価額が大きいもの」については、税金の計算であったり相続人間の争いであったり、問題となりやすいです。

具体的には以下の4種類の財産が挙げられます。

 

  1. 土地
  2. 現金や預貯金
  3. 有価証券
  4. 家屋

 

様々な相続財産がある中でも、大きな価額割合を占めているのが「土地」です。

次いで大きな割合を占めるのが「現金」や「預貯金」。そして「有価証券」、「家屋」の順で大きな割合となっています。

なお、有価証券は、株式や小切手、商品券、為替手形国債証券、社債券などが該当します。

 

生命保険金や死亡退職金には要注意

上に挙げたもののほか、自動車や腕時計なども場合によっては重要な遺産となります。相続税の課税に大きく影響を与える可能性を持っています。

ただ、ここで特に取り上げたいのは生命保険金や死亡退職金についてです。

これらは、土地や自動車などに比べると、もともと被相続人が有していた純粋な財産とは言い難いものの、税制上はこれを相続財産として扱います。

 

誰が保険料を支払っていたのか、誰が受取人として設定されていたのか、細かく状況を整理していく必要がありますが、これらにつき大きな金銭の授受が生まれる場合には要注意です。

 

計算が複雑になってきますので、できるだけ税理士など、専門家に相談するようにしましょう。

「この財産には課税される?」「いくら課税される?」「控除分はいくら?」といった疑問を解消するにはプロの助けが欠かせません。

財産分離の請求を受けたらどうする?相続人がすべきことを解説

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相続開始後、相続人の債権者あるいは被相続人の債権者から「財産分離」の請求を受けることがあります。これは相続財産と相続人の財産が混ざることによって債権が満足に回収できなくなるリスクを避けるために行われるものです。

 

請求の手続は債権者側で行うのですが、この場合、相続人はどのように対応していかないといけないのでしょうか。

 

以下で解説していきます。

 

単純承認したときと同様に財産を管理する

民法第944条には、財産分離の請求を受けた後の財産管理義務について規定が置かれています。

 

同条によると、相続人は、単純承認のときと変わらず、「固有財産におけるのと同一の注意」をもって管理しないといけません。

 

要は自分の財産を管理するのと同等の水準で管理をすべきということです。

財産分離の請求を受けたからと言って債権者に管理を任せるわけではありません。

 

一定の債権者に対し優先的に弁済する

この請求を家裁が認めて財産分離を命じた場合、その請求を受けた債権者や、その請求後、配当加入の申出をしてきた債権者は分離した財産につき優先弁済を受けることができます。

 

逆に言えば、相続人は相続によって得た財産をもともと自分の有していた債務の弁済に充てることはできません

 

また、相続によって引き継いだ債務を弁済するためにもともと自分が有していた財産を使ってはいけません。

 

前者は相続債権者から請求を受けたケース(第一種財産分離)、後者は元から自身の債権者であった者が請求をしたケース(第二種財産分離)です。

 

財産分離の請求防止、効力を消滅させる方法

財産分離の請求を防止したり、その効力を消滅させたりする方法があります。

例えば相続債権者が請求をしてきた第一種財産分離においては、相続人固有の財産をもって弁済をすることに問題はありません。

 

請求者は自らの権利を行使できればそれで良いからです。度の財産から弁済を受けるのか、ということは通常求められません。

 

そのため相続財産に手を付けたくない場合、相続人は固有財産によって弁済をすれば良いのです。請求を防止することができ、請求後でも効果を消滅させられます。

相当の担保を供与してもこれと同じ効果が得られます。

 

ただ当然ですが、相続人に債権者がいて、これをすることによって損害を受けることがあります。

そのため当該債権者が損害を受けることを証明して異議を述べてきたときには、この効果は得られませんので注意したいものです(民法第949条但書)。

財産分離って何?その効力や分離の請求方法を解説

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「財産分与」という言葉は一般にもよく耳にする機会があるかと思います。しかしこれは離婚に伴う夫婦間の財産の分配の話であり、ここで解説する「財産分離」とは異なる概念です。

ここでは相続において重要になる財産分離について解説します。

相続財産が混ざることによる問題

相続財産の中にはプラスの財産もあればマイナスの財産もあります。

例えば預貯金が多く残っている場合にはプラスの財産がその分得られます。

しかし被相続人が借金を多くしていた場合にはマイナスの財産を得ることになってしまいます。

限定承認をすれば、相続人は得た財産分でのみ弁済義務を負いますし、放棄をすれば何らの義務も権利も得ることはありません。

 

他方で、単純承認をしてそのまま権利も義務も無限に引き継いだ場合、プラスもマイナスも含む多様な財産が相続人の財産と混ざり合うことになります。

そうすると、相続人が多くの借金を持っている場合、元々被相続人の債権者であった者が満足に回収できず困ってしまうおそれが出てきてしまいます。

相続財産が500万円で債権額が500万円であったとすれば全額の回収ができたはずです。

しかし借金だらけの相続人がこれを引き継ぐと、相続人側の債権者と取り合うことになり、債権額に応じた割合でしか回収ができません。

財産分離は債権者を保護するための制度

相続によって、上のような債権者のリスクが生じます。これを防ぐのが財産分離の仕組みです。

財産分離の請求をしておけば、債権者はもともと頼りにしていた財産を別物として確保し、そこから優先的に弁済を受けることができるのです。

財産分離の請求方法

債権者が取り得る手段であり、請求をするのも債権者側です。

この請求をするのであれば、相続が始まってから3ヶ月以内に家裁にて手続を進めなければなりません。

 

また、請求が認められた場合、請求者は5日以内に他の債権者等へ財産分離の命令があったこと、さらに一定期間内に配当の申出をすべき旨の公告を行わなければなりません。

ここで言う「一定期間」は2ヶ月より短くすることはできません。

 

請求を行う債権者には一定の負担がかかりますが、これをしておくことで弁済を満足に受けやすくなりますので、回収ができるのか不安がある場合には請求を検討すると良いでしょう。

 

なお、分離後の財産管理までする義務はありませんし、その権利も有しません。分離後も相続人が自己の財産と同等の注意義務をもって管理していくことになります。

家裁から管理人が選定されたのであればその者が管理します。

限定承認者に課される義務とは?限定承認後にすべき手続などを解説

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限定承認をすれば多大な債務の弁済など、リスクを小さくすることができます。しかし、その一方で限定承認をした者にはいくつかの義務が課されます。

ここでとりまとめる内容に留意して義務を果たしていかなければなりません。

財産の管理義務

民法第926条に、限定承認者による財産の管理に関して規定が置かれています。

この規定によると、「固有財産におけるのと同一の注意」を要するとあります。

これはつまり、自己の財産を管理するのと同等の注意義務を意味します。

職務上求められるような高度な注意義務までは課されていませんが、何ら管理をせず、放置していたのではいけません。最低限、自分の財産を守る程度の水準で管理をしておかなければなりません。

実際、その財産が自分のものになるかもしれませんし、何よりも財産が散逸してしまうと債権者は債権の回収ができなくなってしまいます。

限定承認したことを伝える義務

すべての債権者、受遺者に対して、自らが限定承認したことにつき公告をしなければなりません。

こちらに関しては期限がありますので要注意です。

限定承認をしてから5日以内」と法定されています。

さらに、公告において、一定の期間内に請求の申出をすべきことも掲載しなければなりません。その期間は2ヶ月より短くはできません。

併せて、当該期間内に申出をしないのなら弁済の対象から外される旨も明記しなければなりません。

申出がなければ限定承認者はその分弁済の義務がなくなります。ただ、すでに債権者であることを知っている者がいる場合、申出がないからといって弁済の対象から外すことはできません。

財産を換価する義務

後の弁済を図るためには、現物のままでは実行できないことがあります。

そこで、相続財産を換価しないといけません。

限定承認者は財産を競売に付すことになります。

相続財産からの弁済義務

上の公告で定めた期間の経過後、限定承認者は、申出をしてきた債権者に対して、相続財産から弁済をしなければなりません。

ただし、単純承認と違って無限の義務を負っているわけではありませんので、債権者も全額の回収ができるわけではありません。

そこで、まずは優先権を有する者に弁済をし、残った分があれば債権額の割合に応じて弁済をしていきます。

 

なお、この時期においては、各債権が弁済期に至らないとしても弁済の義務から免れることはできません。

受遺者への弁済

受遺者に対しては、債権者に遅れての弁済となります。

全債権者に弁済してもなお財産が残っているのであれば、受遺者への弁済義務が生じます。

限定承認をする方法とは?その後の効力についても解説

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相続が始まると、そのまま権利も義務も引き継ぐほか、相続人には「限定承認」という手段も残されています。ここではその手続や、その後の効力について解説します。

限定承認とは

民法第922条に規定が置かれています。同条によると、これは「取得した財産の限度で債務等の弁済義務を負う」という承認の方法です。

何ら手続を取らなければこうした「限度」はなく、「無限」に権利も義務も引き受けることになります。

そうすると、多くの預貯金や不動産などを残している場合には大きな利益を得られる反面、多大な借金等を残した場合にはかえって財産がマイナスになってしまいます。

 

こういった状況を避けるために有効なのが、この限定承認だということです。

弁済すべきもの以上に財産が残っていれば相続人にとってプラスとなりますし、逆に弁済すべきものが多くあったとしても、それは引き継いだ財産でまかなえる程度に限られます。

万が一のリスクをなくすことができますので、複雑な権利関係を有している被相続人を持つ場合には有効な手段となるでしょう。

限定承認をする方法

複数人の相続人がいる場合、限定承認は全員でしなければなりません

また、相続が始まったことを知ってから3ヶ月以内に財産目録を作成して家裁へと提出しなければなりません。

いつまでも悩んでいる暇はありませんし、財産状況を調査して目録を作成するなど、全員で協力して手続を進めていくことも大事です。

 

なお手続は亡くなった方の最後の住所を管轄とする家裁です。

費用はかかりますが、必要なのは収入印紙800円分と連絡用の郵便切手くらいですので大きな負担とはなりません。

申述書、その他戸籍謄本などの添付書類とともに手続を進めていきましょう。

一部が財産を隠した場合

相続人となる者が財産を勝手に隠したり、自分の利益のために消費したりすると、単純承認したものとみなされます(民法第921条)。

 

そうすると、限定承認の効力はどうなるのでしょうか。

全員でするものと定められているため、一部の背信的行為をした者のせいで、同条の規定によってみんなが限定承認できなくなったのでは適当とは言えません。

そこで民法第937条にこのケースにおける規定が置かれています。

(法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
第九百三十七条 限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第九百二十一条第一号又は第三号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。

一部の者に法定の単純承認が認められる場合、当該行為をした者だけがその相続分の範囲で責任を負うということです。

単純承認をするとどうなる?相続人の権利や義務とは

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親や配偶者など、身近な方が亡くなると相続が開始されます。相続人となった者が取り得る手段としていくつか考えられますが、基本形となるのが「単純承認」です。

ここでは単純承認とは何か、単純承認をすることでどうなるのか、相続人の権利義務に関して説明します。

単純承認による効果

単純承認をすることでどうなるのか、民法第920条に規定が置かれています。

 

(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

 

同条によると、被相続人の権利に加え義務に関しても引き継ぐと定められています。

つまり残っている預貯金や土地、家などがもらえるだけでなく、マイナスの財産、要は借金なども引き受けることになるのです。

しかもその程度は問われておらず、「無限」です。

 

仮に親族が自分以外にいない状況だとすれば、無限に権利及び義務を引き継ぐということは対外的に被相続人がそのままトレースされたことを意味します。

人が変わっても第三者は権利を行使できますし、逆に相続人は引き継いだ権利を他者に対して自らの権利として行使することが可能なのです。

 

親が亡くなった場合においてその配偶者や子がいる場合には権利も義務も分配することになりますが、いずれにしろ大きな義務を引き受けるかもしれず、場合によってはリスクとなり得ることも知っておかなければなりません。

何もしなければ勝手に単純承認したことになる

単純承認は基本形であり、これをしようとする者は特別な手続を取る必要はありません。

民法第921条および第915条1項の規定によれば、相続が始まったことを知ってから3ヶ月以内に単純承認とは別の手続を取らなければ単純承認したものとみなされます。

財産に手を付けても単純承認とみなされる

第921条では、何もしなかったとき以外にも単純承認をしたものとみなされる行動パターンが示されています。

以下がその例です。

  • 財産の一部でも処分したとき
  • 財産の一部でも隠したとき
  • 財産の一部でも消費したとき
  • 意図的に財産目録に記載しなかったとき

ただ、財産に対して一切の行為が認められないわけではありません。

条文上も、保存行為や短期的な賃貸であれば承認したことにはならない旨規定されています。

保存行為に関しては、これを自由にできるようにしておかなければ財産が散逸してしまい、当該財産を引き継ぐ者に損失が生じてしまうからです。

また不動産であれば誰かが使用していないと状態が悪化してしまうということもありますし、賃貸に関しても限定的に認められています。

 

権利も義務も引き受けたくないのであれば、ここでまとめたことに留意するようにしましょう。

相続放棄をする際守るべきルールや必要な手続を紹介

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非常に大きな借金を背負っていた場合やその他様々な事情により、相続の放棄をすることもあるでしょう。しかし放棄も最低限法律で定められたルールを守って行わなければならず、これを守らなければ想定外の事態に陥ることもあります。

ここでは放棄についてのルールや、必要な手続について解説しますので、ぜひ参考にしてください。

相続放棄の基本的なルール

放棄に関しては民法第915条で定められています。

第915条 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

同条によれば、相続が始まったことを「知ってから」3ヶ月と、期間に制限が設けられていることが分かります。

いつまでも放置をすることは許されません。

ただ、一応当人が認識してからという主観的な要素が組み込まれているため、知らない間にその権利を失っていたということは起こりません。

 

問題は判断をするのに必要な情報がなかなか集まらない場合でしょう。

同条2項にあるように、事前に財産の調査ができるとあります。放棄をわざわざするのは、遺産を引き継ぐことにデメリットがあるからであり、その判断は財産状況が把握できていなければすることができません。

しかし簡単に調べることができず、しばらく時間を要することもありますので、そうすると3ヶ月では足りないことも珍しくありません。

放棄のために必要な手続き

相続開始後、何らアクションを起こさなければ「承認」をした扱いを受けます。しかし、放棄をするには、別途手続きを要します。

家庭裁判所へその旨申述しなければならないのです。

全国各地に家裁はありますが、申述先として認められるのは、亡くなった方が最後に住んでいた住所を管轄する家裁です。

 

費用もかかりますが、1人あたり800円の収入印紙および連絡用切手分だけですので、費用がネックになることはないでしょう。

 

申述書と亡くなった方の戸籍附票(もしくは住民票除票)と、申述人の戸籍謄本は共通する必要書類ですが、亡くなった方との関係性によって変わってくる準備物もあるため注意しましょう。

例えば亡くなった方から見て、
「配偶者であるケース」や
「子または代襲相続する孫やひ孫等であるケース」、
「親や祖父母であるケース」、
「兄弟や甥・姪といった代襲者であるケース」
などのパターンで分かれています。

 

申述書はフォーマットが家裁のWebサイトで確認できますので、一度チェックしておくと良いでしょう。

20歳以上か未満かによっても記載の仕方が変わりますので注意が必要です。

 

なお、念のため実際放棄をするときには専門家への相談をおすすめします。一度手続を済ませてしまうと通常はやり直すことはできませんし、トラブルのないようにしなければなりません。

相続の廃除をしたが取り消したい!どのような手続をすればいい?

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配偶者または子などとの関係性が非常に悪く、財産の承継を否定する客観的な事情も持つ場合には「廃除」をすることができます。

しかしその後、実際に相続が始まるまでの間に関係性が回復することもあるでしょう。このようなケースで廃除を取り消すにはどうすれば良いのかご存知でしょうか。

廃除の取消しとは

配偶者や子は、通常、相続人となることができます。そのため被相続人との関係性がどうであれ原則は財産を引き継ぐことが可能です。

しかし、生前に暴力をふるっていたり侮辱的な行為をしていたりなど、著しい非行がある場合にまで相続人としての立場を守る必要はありません。

 

そこで「廃除」の制度が設けられています。

被相続人となる者は、家庭裁判所に請求をして、その者から相続の権利を剥奪できるのです。遺言によってその意思表示を行うことも可能で、その場合には遺言の執行者が家裁に請求を行うことになります。

 

ただ、この廃除は、一度手続を終えればいっさい取り消すことができないものではありません。廃除を取り消して、配偶者や子などの相続権を復活させることは可能です。

 

例えば、関係性が良好になることもあるでしょう。過去に酷い扱いをされていたとしても、数年、数十年経過すれば関係性が変わることもあります。

そもそも廃除の制度自体、被相続人の持つ財産の処理について、本人の意思を尊重すべきということで設けられているものです。

そのため実際には関係性が回復をしていなかったとしても、本人が、自らの意思で廃除をなかったことにしたいというのなら、その意思も尊重すべきなのです。

 

その結果、取り消しをすることは認められていますし、民法でもその旨規定が置かれています。

第894条第1項 被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

なお、廃除が遺言でも可能なのと同様、取り消し請求も遺言によって行うことが可能です。そしてこちらもやはり遺言の執行者が代わりに家裁へ請求をします。

廃除を取り消す際の注意点

取り消しを請求しても必ずその通りになるとは限りません

もともと廃除自体が厳格な審査を要する手続であるため、その取り消しにも家裁が介入します。

 

そこで、遺言での取り消しは避けるべきでしょう。この場合、事後的な対応となり、上手くいかなかった場合に対処のしようがなくなります。

理由を書き残したり、証拠を残したりなど、工夫して遺言を作成しなければなりません。

 

そこで事前に専門家のアドバイスを受け、家裁に請求をしておきましょう。自ら証言することも可能になりますし、結果として請求を認めてもらいやすくなります。

相続人がいないとき債権者はどうする?財産管理人の選任について紹介

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被相続人の債権者は、相続財産から救済を受けることが可能です。しかしその遺産を管理してくれる者がいなければ財産が散逸してしまうおそれもあります。そこでこのような事態に備えて管理者を定める手続が設けられています。

管理人選任の申し立て

遺産は、相続人が管理するものとして法律で定められています。そのため通常は特段の手続を要することなく財産が保存・保管されます。

しかし常に相続人が存在しているとは限りませんし、存在が明らかでないケースもあります。

債権者は、弁済を受ける前に債務者が亡くなってしまった場合、残っている財産から救済を受けることになりますが、適切な管理をされていなければ十分な弁済が受けられない可能性も出てきます。

 

そこで役に立つのが「管理人選任の申立」制度です。家庭裁判所に申立を行い、管理者を選任してもらうのです。選任後はその者が債務の支払いなどを代わりに行うことになります。

 

申し立てることができるのは「利害関係人」と「検察官」とされており、この利害関係人とは例えば債権者や特定遺贈を受けた者、そして特別縁故者なども含まれます。

 

必要な費用を準備して、被相続人が最後に住んでいたエリアを管轄する家庭裁判所へ申立てを行いましょう。

なお費用と言っても800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手、公告料4,320円だけです。

 

管理の仕事に対する報酬は相続財産の中から支払うことになるため、申し立てをした者が直接費用を負担する必要はありません。

ただ、遺産価額が少額であった場合、管理者への報酬分が満足に捻出できない可能性があります。

そうすると申立人が予納金として納めないといけないケースもありますので、注意が必要です。

選任申し立てに必要な書類

当該申し立てに必要な書類は「申立書」と、戸籍謄本等の添付書類です。

申立書は裁判所のWebサイトから書式や記載例が確認できます。添付書類の種類に関しても以下のサイトで掲載されていますので、一度確認しておくと良いでしょう。

https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_15/index.html

選任後の流れ

  1. 家裁が選任をした後、まず、その旨の公告がなされます。
  2. そして公告から2ヶ月経過後、債権者や受遺者を確認するためにまた公告を行います。
  3. その公告からさらに2ヶ月経過後、家裁は相続人を捜すために6ヶ月以上の期間を設けて公告を行い、期間満了までに現れなければ不存在が確定します。
  4. その後管理者は必要に応じて、財産を換価し、債権者等への支払いをしていきます。

この流れを見て分かるように、実際に債権者が支払いを受けられるまでには長い期間を要します。この点理解しておきましょう。

なお残った財産は国庫として収められます。

相続開始後、財産の管理は誰がどのように行う?相続放棄した場合も紹介

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相続は財産をもらうことにばかり注目がいきがちですが、特定の財産を引き継ぐまでには時間を要します。そこで、遺産分割が確定するまでの財産管理が問題となります。

 相続人が管理するのが基本

最も基礎的なルールが民法第918条第1項に規定されています。

第918条 相続人は、その固有財産におけるのと同一の注意をもって、相続財産を管理しなければならない。ただし、相続の承認又は放棄をしたときは、この限りでない。

この規定によれば「相続人」が管理をしなければいけません。基本的にその財産は相続人らで分けることになるため、その者達で大切に保管し、管理するのが当然と言えるでしょう。

そしてそのときの注意義務は「固有財産におけるのと同一の注意をもって」とあり、これはつまり自分の財産と同じ程度の注意義務で足りると解釈されます。

そのため、将来的に自分は承継しないだろうと思われる財産であっても、きちんと保管をしていなければなりません。単に手元に置いてさえすれば良いのではありません。

ただし、「善管注意義務」と呼ばれる、高度な注意義務までは課されていません。

 

なお、相続人がいないケースもあり、そういった場合に備えて同条第2項では、利害関係人や検察官からの請求によって財産の保存に必要な処分を命じることができるとも規定されています。

相続人ではない者が贈与の契約をしているケースもありますので、その場合に保管者がいないのでは困ります。利害関係を持つでも勝手に財産に手を出すことはできないため、家庭裁判所に請求をして財産を保護してもらうことになるでしょう。

相続放棄をしても管理の義務はある

続いて相続を放棄した者の対応に関しても見ていきましょう。

上で紹介した条文には、ただし書きで「放棄をしたときはこの限りでない」とあり、放棄をしたならこのルールが適用されない旨定められています。

 

しかしながら民法第940条には、放棄をした者による管理に関する規定が置かれており、放棄をしたとしても相続人となった者が管理を始められるまでは管理を継続しなければならないとされています。

第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

放棄をした場合、プラスの財産もマイナスの財産(借金など)も一切引き継がなくなり、初めから相続人でなかったものとして扱われます。

相続分の計算をする場合にも完全に無視されることとなり、相続に関して関係性を断つことができます。

 

しかしながら管理に関してもこの流れを貫徹してしまうと、財産が散逸してしまうなど、多大な影響が及ぶおそれがあります。そのため、このように次の管理者が出てくるまでの間に限定して管理の義務を課しているのです。

なおここでも注意義務は自己の財産と同一で足りるとされています。